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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 始まりは懺悔の願い ( No.30 )
- 日時: 2010/04/18 10:50
- 名前: 暗刻の導き手 ◆MCj.xXQAUE (ID: yL5wamFf)
「きりーつ」
日直のやる気がこもってない、ボンヤリした声。そんな声だが、教師以外誰もしゃべっていない教室に響くには十分な声量を持っていた。
周囲の生徒たちが椅子を引きずるようにして立ち上がる音に続き、春奈も立ち上がる。
「礼」
男性教師はさっさと教室から立ち去り、死んだように静まっていた冷たい教室に本来の明るい温かな空気が戻る。
それぞれが周囲の友人と話しながら、教室の後ろに整然と、ズラリと並べられているロッカーの中に教科書類を詰めている。
「行かなきゃ」
そんな光景を沈鬱な気持ちで眺めながら。
春奈は妙に重く感じる教科書を持ち、廊下にでる。
若奈に教科書を返しに行かなければ。
頭では分かっているのに、体がそれを拒絶するかのように、うまく動かない。
早く行かなければ。若奈が困るかもしれない。
以前教科書を返し忘れた時の若奈の顔を覚えている。困った顔で。けれど頭ごなしに怒らず、今度からは気をつけてねと小さく笑っていた顔を覚えてる。
「行かなきゃ……!」
呪文のように小さく誰にも聞こえないように呟く。
周囲の教室から数人の生徒が出てくる。
けれど、春奈の目にはそんな生徒たちは映らなかった。否、映ってはいた。けれど、それ以上に頭の中にびっしりと展開される思考の処理に必死だった。
行かなきゃいけない。
それは、絶対だから。
だから……。
会いたくないなんて言ってる場合じゃない。
自分がさらに惨めになるなんて、言っている場合じゃない。
なぜなら今も、十分惨めなのだから。
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