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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 始まりは懺悔の願い ( No.33 )
- 日時: 2010/05/02 19:05
- 名前: 暗刻の導き手 ◆MCj.xXQAUE (ID: khxqjExY)
第三章
始まりの、数日前
控えめな朝日が、きちんと閉められていないカーテンのわずかな隙間から若奈のプライベートルームに差し込む。
「ん……」
目覚まし時計を手探りで手に取り、目をこすりながら、時刻の確認。
現在、六時五十分。
中学校までゆっくり歩いても十分で着いてしまうため、以前は七時半ごろに起きていた。けれどこの頃若奈は早起きをしていた。いつもより三十分以上早く起きるのは、かなり辛いけど。
「起きなきゃ……」
重い体を動かし、ハンガーにきっちりかかっている制服に手を伸ばす。
慣れた手つきで、服を脱ぎ、着替える。いそいそと着替える。
春奈と顔を合わせたくない。そんな理由で。姉失格のそんな理由で。嫌悪感で吐き気がするような気持ちで。
「……」
沈んだ気持ちを消そうとしたけれど、それは全くの徒労だった。
それどころか。
小学校入学時に買ってもらった、きちんと手入れされている勉強机。その上に置かれた電源を切ってしまい、もう何日も触れていない携帯電話が視界に入ってしまって。
気分はさらに重く、沈む。
「……」
沈鬱な、おなかが痛くなりそうな気分の中、いつものようにおみそ汁の心地いい匂いのするリビングに顔を出す。
「お。今日も早いな、若奈」
慣れた手つきでキッチンを動き回っていた少年がこちらを見て、親しげに明るく手を振った。
「うん。……おはよう、お兄ちゃん」
「おはよう」
ずっと前に家庭科の授業で作ったと言っていたエプロンをつけた兄は、母よりも手際がいいのではと考えてしまうほどの要領で、テーブルの上に若奈の食卓を用意する。
「……いただきます」
沈鬱な気分を無理やり押しだして明るめの声を出し、こちらを嬉しそうに眺める兄の横で、若奈の一日は始まった。
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