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Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-8 ( No.102 )
日時: 2010/09/12 19:32
名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: 2nnbbVZM)
参照: 百ゲットー。…虚しい。

「なっ……!」
 絶句するユノ。彼女の目に映ったものは、通常の思考では到底理解できないものだった。
 女中服の女性の姿は映らず、そこにあるは無数の腕であった。どれも先程見た彼女の腕のように、無数の肉片を無理やり縫いつけたような痛々しい形で。そして更に驚くべきはその数だった。一本や二本なら生物学的に納得できるが、それを許さないほど尋常ではなく容易に二桁は超える数で、それらは壁になるように女中服の女性の前に存在していた。ユノの腕が抜けなかったのはそのうちの一本が彼女の左腕をつかんで離さなかったからだ。
 また別の腕が身動きの取れないユノの小さな体を突き飛ばす。傲慢から風障壁はまだ張っていなかったために直撃をもらい、彼女はどこかへ行ってしまいそうな意識を必死に繋ぎ止めながら飛ばされて地面に落ちた。
 咳き込みながらユノは相手を確認するために顔を上げる。追撃をしてこなかったことに少し安堵してしまった自分を許せなくなり、舌打ちをした。
 女中服の女性が腕の中から立ち上がる。その光景で、ユノは再び驚愕した。
 彼女の首——正確には左の鎖骨あたりだが、文字通りそこから腕は“生えていた”。後々理解することだが、女中服の女性の身体中に両腕のようなツギハギの跡があり、それが開いてそこから腕が生えているのだ。一言で言うと、あまりいい気持ちで眺められる状態ではなかった。
 立ち上がりながら女中服の女性はうんざりした様な表情をする。彼女の主らしき、藍色の髪の毛の少年が彼女の元へ近づいていった。
「まったく、この姿は自分でも正直引くわね……。でも、実際ヤバかったから仕方がないけどさ。はぁぁ……」
「ふん。流石にひとりでは簡単にいかないようだな。……切り替えろ、“レイジー”」
 レイジーと呼ばれた女中服の女性は今までの真剣な表情を止め、まるで友人あるいは恋人を見るような視線を少年に送った。
「はいはい。どうせ私じゃ役不足ですよーだ。そんなに言うなら私抜きでやってみなさいよ、“ニコ”」
 ニコと呼ばれた少年は目を閉じて軽く笑い、右目を隠すように分けられた髪を払って隠れていたそれをあらわにした。
「Let’s time to party. ……“クレイジードール”アリス……!」
 彼の左の額から頬にかけて少し黒みがかった水色の、絵に描いた瞳のような形の魔力回路が走った。