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Re: ロンリー・ジャッジーロ 第一章-3 ( No.16 )
日時: 2010/08/06 16:03
名前: こたつとみかん (ID: eMnrlUZ4)
参照: 今はあるフィーねkの家にいます。おかしな ことはしていませんよ。

第一章『愚かなる華』④

 悪魔のような笑顔。それがその男の第一印象だった。
 広場に飄々と入ってきた男は、男にしては長すぎる蒼い髪の毛で、深く黒いニット帽子を被っていた。黄金色の瞳は鋭い目つきを放っている。男の着ている、タイトな革製のロングジャケットの長い裾が風になびいている。
 その男の名は、サジタリウス・ヴァイロ・ファルセット。古代共通語で「射手」を意味するその名前をもとに、アロウズというチームを創った人間。つまり、アロウズのボスだ。
 その姿を見た途端、アイリスはかつてない殺人衝動に襲われ、高周波斧を握る力がもう持ち手が砕け散るんじゃないかと思わせるくらい強くなった。頭に血が昇りすぎて、目の前が一瞬真っ赤に染まった。——駄目だ。落ち着け。ここでいきなりあいつに斬り掛かれば、それは人として三流のすることだ。ああ、脳内の血流が速すぎて思考が鈍る。血管がパンクするのか? してしまったらそれはもう三流どころじゃない。というか、死ぬ。だが、いつまでこの押さえようなない怒りを静めていられるのか見当が付かない。アイリスの身体全体は怒りで震えている。
 サジタリウスが足元に転がっている、自分の部下を見下ろした。そして、それの顔を、体重をかけた足で踏み潰した。ぐしゃり。気分が悪くなり、吐き気がするような音が聞こえる。踏み潰された男が痙攣を起こした。
 「オイオイオイオォォォォイ。よくも、このオレ様の可愛くて愛しくて踏み潰しちゃいそうなべェイビーたちを殺ってくれたなァァ……」
 ——静まれ。落ち着くんだ。氷だ。氷の海をイメージしろ。決して、決してこの怒りが爆発しないように。あの最低野郎の言葉は一字一句聞くな。アイリスは、ぎりり、と自身の歯が割れて砕けるかもしれないくらい噛み締めた。
 その最低野郎こと、サジタリウスがアイリスの方向を向いた。アイリスの存在に気付くと、三日月を思わせるくらい口が反りあがり、笑った。
「おや、おやおやァ……? これはこれは、いつからかどこかに消えしまっていた、このオレ様の忠実な駄犬じゃねェかァァ……!」
 氷の海が、一瞬で蒸発した。
 アイリスの魔力回路に、黒みがかった赤、というより赤みがかった黒色の魔力が流れる。アイリスが走る。重くて引きずることしか出来なかった高周波斧を、片手で持ち上げながら。——思考が停止する。もう、止められない。停止停止停止停止停止停止停止停止停止停止——。片手で振り上げた高周波斧をサジタリウスの頭に振り下ろす。紙一重、サジタリウスは身を退いてその斬撃を避けた。刃が地面とぶつかり、勢い良く土埃が舞った。
 その土埃から現れたのは、漆黒の髪色の少女——。その少女の目には、憎しみと怒りしかなかった。そしてその少女は、紛れもなく、アイリス・フーリー・テンペスタその人だった。



文字数オーバーだそうで、二回に分けます。