ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第二章-1 ( No.25 )
- 日時: 2010/08/06 16:10
- 名前: こたつとみかん (ID: eMnrlUZ4)
- 参照: たまに、キャラのC.Vを考えたくなります……。
第二章『大仕事』②
その少年は見かけからして十代半ばくらい、アイリスと同じかそれ以下だろう。上下の服が繋がっているツナギと呼ばれる作業服に身を包んでいて、手入れされていないボサボサの明るい茶色の髪が目立つその頭には作業用のゴーグルが巻かれていた。
第三工場前に集まっている便利屋たちを一瞥し、ニカッと笑った。
「どうもっ! 俺がキミたちの依頼主、ヴィルバー・ニック・デルブライトっス。十六歳のしがない武器製造師やってるっス」
不自然な敬語を使いながらぺらぺらと聞いてもいない自分の素性について話す少年に、アイリスは半ば呆れ気味だ。アイリスの他の便利屋たちもそうなっただろう。なぜなら、依頼主が自分の素性をここまで明かす者は今までいなかったからだ。
ヴィルバーは便利屋たちが作り出した気まずい雰囲気に少し困惑して、その場を和ますように笑って言った。
「えー……と、今度はキミたちが自己紹介する番っスよ。名前と所属のチーム言ってほしいっス」
その言葉はこの場を和ますことなく、むしろ更に気まずくさせた。だが、いつまでもこの状態を維持し続けるわけにもいかないと判断した便利屋たちが口を開いた。最初に言ったのは禿頭の男だった。
「『スカー』のフォンだ。んで、後ろの二人で顔に傷があるほうがザンクで背が高いのがジオットだ」
フォンの後ろのザンクとジオットが軽く手を振った。神刀を鞘に納めて次に口を開いたのは黒峰だ。
「『邪払(よこしまはらい)』の黒峰と申す。東州神国より参ったため共通語が不自然であるが、許されよ」
そう言って黒峰はぺこりと頭を下げた。東州神国特有の黒い色の短髪がふわりと揺れる。次に言ったのはアイリスの目に付いた女中服の女だ。
「私(わたくし)の名前はアイビー、アイビー・スィンス・ハーバートですわ。『ネバートデッド』に所属しておりますの」
アイビーと名乗った女は両手で女中服の左右の裾を持ち、優雅に微笑んで片足を立たせて見せた。ネバートデッド。ニコの姓だ。すると、この女中服の女はやはりニコの従者なのか。
それよりも、アイリスには気になることがあった。——便利屋のチームについて。アイリスは今までそんなこと気にも留めていなかった。むしろ、在ることすら知らなかった。確か、便利屋のチームを組む際にそれを決める項目が書類にあったような気もするが、書いたのはニーベルだったので在ったとしても聞いていない。
「・・・・・・殿。フーリー殿」
そんな考え事をしていると、急に肩を叩かれた。見ると、黒峰がいた。どうやらアイリスの他の便利屋は全員名乗ったようで、もうアイリスが名乗るのを待っているだけだった。全員がアイリスに視線を送っている。アイリスは少し困惑してこっそりと黒峰に聞いた。
「なあ、黒峰。私とベルのチーム名って、知ってる?」
それを聞いた黒峰は完全に呆れていた。まあ、当然といえば当然だろう。それから二人は他の便利屋に背を向けて話し出した。
「フ、フーリー殿。冗談で御座るか」
「冗談なわけあるか。いや本当、ベルから何か聞いてない?」
「聞いているも何も、便利屋になってからならフーリー殿の方がニーベル殿と話しているではあらぬか」
「じゃあ、どうすればいいって言うんだ」
「それは拙者にも判らぬ。……いや、今この場で考えればいいでは御座らぬか」
「……そんな簡単に決まる代物じゃないだろう。これは」
「いや、任されよ。拙者が考えるで御座る」
「だから、勝手に決めていいものじゃないだろ。ベルが決めた名前と違っていたらどうするんだ」
「その点は安心されよ。別に正式に名乗らなければならないという決まりごとはない故、即興で名乗っても大丈夫で御座る」
「え、てことは、この中にチーム名偽ってる奴もいるのか?」
「そう言ってはおらぬ。……まあ、いないという確証もあらぬわけだが」
「ふうん」
「…………。む。むむむ。閃いたで御座る! もうこれ以上はないってくらい閃いたで御座る!」
アイリスは黒峰が考えた名前を聞いた。アイリスは別に他に案が有るわけでもなかったので「まあいいや」とそれに決め、ヴィルバーたちの方を向いた。そこでやっと気がついた。皆が冷ややかな視線を受けていることを。スカーのフォン、ザンク、ジオットは少し苛立った様子だし、アイビーの笑顔も困惑気味だ。他の便利屋やヴィルバーも苦笑している。
「ええと、まぁ何だ、その」
アイリスは少し気まずそうに人差し指で頬を掻いて言った。
「遅れてすまない。『菖蒲(しょうぶ)』の……フーリーだ」
このときアイリスがファーストネームで名乗らなかったのは理由があった。ほとんどニーベルという家族同然の親友と仲良く過ごしているので周りから見ると判りにくいが、アイリスは自分が気を許した相手以外はやけに排他的な態度をとる。たまたまニーベルの繋がりでニコ、レイジー、ブランクや黒峰などと会話をするようになったが、その他とはまともに会話しようとしないし、ニーベルの繋がりでも成人男性には気安くファーストネームで呼ぶことを許していない。そうなったことにも理由があるのだが、それはまた別のお話。
「よし、これから詳細について話すっス」
ヴィルバーは右手の指で北東を指差して話し始めた。
「これから皆には、この工業通りの先にある『機械の魔窟』に行ってもらうっス」
魔窟——。それは、ヴィ・シュヌールの国内各地にある魔物の住処のことだ。先日アイリスたちが行った常軌を逸した熱さの洞窟も魔窟のひとつで、『炎の魔窟』と呼ばれる。機械の魔窟は工業通りで排出されたスクラップを、微小の生物に魔力が宿って知能を持った魔物がそれに巣食って動かすようになった、兵器じみたものいる魔窟だ。魔窟という場所は国内でも危険区域とされており、便利屋以外は決して近寄ろうとしない所だ。故に、こうして魔窟で何か採集したい場合は便利屋の依頼としている。
「そこで使えそうなガラクタを集めてきてほしいっス。あ、俺も同行するんで使えるかどうか俺の目で見てから受け取るっス。」
「……それはいいが、報酬金は払えるんだろうな」
フォンが誰もが思っているであろうことを口にした。四万七千ダルズを九人分だから、四十二万三千ダルズ。更に使えるガラクタ一個に付き五千七百ダルズというと合計金額はとんでもないことになる。
「ふっふっふ。そう聞かれると思ってたっス!」
そう言ってヴィルバーは一枚の紙を出す。そこにはなにやらムカデとサソリを足して二で割ったような形の機械だった。それを皆に見せて説明しだす。
「報酬金の四万七千ダルズはこの機械を行動停止にした人だけにあげるっス。数人がかりで倒した場合は山分けになるっスから、タダ働きにならないように五七〇〇ダルズの方があるっス。何か意見ある人はいるっスか?」
意見などあるわけがない。なんて効率がいい仕事だろう。あの機械を停止させれば最低でも五千二百二十二ダルズ手に入るわけだし、無理でも使えるガラクタで稼げるのだから、文句ない仕事だ。
「じゃ、行くっス!」
ガラクタ集めが始まった。