ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第二章-3 ( No.33 )
- 日時: 2010/04/18 17:09
- 名前: こたつとみかん (ID: ubqL4C4c)
- 参照: 今はあるるんの家!
第二章『大仕事』④
追放者——。ヴィ・シュヌール国内の便利屋たちの間にあるルールを破り、同業者たちから追われる身となった者たちを指す言葉である。街中では指名手配として懸賞金が掛けられ、表社会での暮らしが出来なくなる。そして見つけられ、捕らえられた日には制裁として何をされるのか判ったものではない。故に追放者は、その身の安全を確保させるための手段を選ばない。
しかしアイリスには、それよりもさらに絶句させる一言があった。——今、あいつは何を言った……? アロウズ。間違いない、アロウズと言った。しかも、ボス直属の暗殺者と。
迷いは要らなかった。
「黒峰……」
怒りでアイリスは声を震わせる。黒峰が聞き返すと、アイリスは左手を前に突き出し、その二の腕に右手を添えるという動作をとった。
「止めて、くれるなよ……?」
アイリスは回路に魔力を通すための、始動の条件である自分の契約精霊の名を告げた。
——『サタン』。
サタンという名の存在はラグナロクより、古代文明より更に前、神による世界の創世記の時代に生まれた存在だ。創生の神が創り出したはじめの人間、アダムとイヴに禁忌の果実を食べるよう囁き、その罪により六本の脚を切断された悪魔として古代より知られるが、最初は神の裁判所での告訴者であり、火刑という苦痛によって人間を試す天使だった。古代より伝えられた神の聖書が人の子の言葉で訳されたとき、人間にとっての試練の天使から、神に対抗する闇の力となった。アイリスの髪が回路に魔力を通した際に漆黒に染まるのは、その黒い闇の力が全身の細胞という細胞を強化させるべく体内を循環するためだ。そうして強化された細胞はその姿形はそのままに、より強靭なものとなる。
漆黒の髪色に変化したアイリスはアイビーに向かい、走り出しながら詠唱を始めた。
「謳え汝ら愚者の如く。木っ端芥の華の生命を。悪魔よ廻せ。秒針をサカサマに、魂をサカシマに、世界をヨコシマに……!」
アイリスの右手に握られている高周波斧が、黒い炎をまといその姿を大剣へと変貌させる。『炎刃』という魔導を闇の魔力で応用した『闇焔』だ。憎しみと怒りのこもった翡翠色の瞳でアイビーを見据え、その脳天から両断しようと炎刃・闇焔を振りかぶった。アイビーも二本の電動鋸を構えて二人の戦闘が始まろうとしたとき、
「く、黒峰さん、とと、止めるっス!」
誰かが叫んだ。振り向かなくても判った。ヴィルバーだ。その瞬間、黒峰は考えるより先に身体を動かしていた。右手で左腰の鞘から神刀を抜き、アイリスの前に立ちはだかるように割って入った黒峰は、滑らかな曲線を描かせながら神刀を横に振る。
「覇ァァァ……!」
肺の中の息を全て吐き出すような声と共に振られた神刀は、目前から振り下ろされる炎刃・闇焔をまとったアイリスの高周波斧の刃を——削ぎ落とした。
振り下ろしの最中に武器重量のバランスを崩されたアイリスは一瞬転びそうになったが、寸前で高周波斧を手放し、地面に手を付き踏ん張ってこらえた。手放された斧が地面に突き刺さる。斬られて落とされたのは炎刃・闇焔で増大化させた場所だったので、元の高周波斧には傷は付かなかった。
分割しまふ。