ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第二章-5 ( No.41 )
- 日時: 2010/04/25 17:21
- 名前: こたつとみかん (ID: ubqL4C4c)
- 参照: いん ざ あるるん はうす♪
走っている途中、黒峰はアイリスに声を掛けた。
「……とは言ったものの、あのデカブツが何処にいるかは、拙者には皆目見当がつかないで御座る。フーリー殿はついているで御座るか? ……見当」
「知らないけど、あの画像を見る限りいかにも『捕食者』って感じだったからさ、」
アイリスは、辺りをうろついている小さな機械の魔物のひとつを掴み、前方に投げてみた。
「こうして餌的なものでも撒いておけば、食いついてくれたりするんじゃないのか?」
それに、黒峰が苦笑する。
「はは、いくらなんでもそれは……」
あり得ないで御座るよ。黒峰はそう言おうとしたが、それは鼓膜をつんざくほどの轟音でかき消された。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……!」
その轟音と共に、ふたつの鋏状の物体が地中から姿を現す。片方でアイリスの投げた小さな機械の魔物を掴み取るように挟み、掴んだ状態のまま今度は身体全体が地中から現れる。ムカデとサソリを足して二で割ったようなシルエット。間違いなく、ヴィルバーの討伐依頼の標的だ。名称は判らないため、アイリスは暫定であれの名称を『ムカソリ』とした。ムカソリは全身光沢のある灰色で、間接部は青色だった。
今の出来事で、二人の全身の汗腺から冷や汗が溢れ出す。そして、血の気の引いた顔でお互いの顔も見ずに会話を続ける。
「まま、マジか……?」
「で、でも、フーリー殿が餌を撒いてくれたおかげで、危険は回避されたでござるよ……」
「え、危険って、……もしかして、あれ、人間も食うのか……?」
見ると、ムカソリは小さな機会の魔物を食し終え、こちらに気がついて口をアイリスたちに向けていた。そして、アイリスたちはそこで見た。はっきりと、ムカソリの口の部分に——真っ赤な真っ赤な人間のものであろう血液が付着していて、それが今もなお、口から流れ出ていることを。
悲鳴の言葉も出なかった。
「……!」
アイリスと黒峰は身体の向きをムカソリの正反対に変え、一切の躊躇いなしに走り出した。——走れ。走れ。走れ。走れ。走れ。走れ。走れ。後ろなんか振り向くな。絶対に速度を緩めるな。追いつかれるな。ただ逃げることだけを考えて走れ……!
アイリスたちとムカソリでは、ムカソリのほうが若干速いようで、少しずつだが距離が縮まっていく。段々大きくなっていくムカソリの移動音に恐怖し、必死で走行速度を上げようとするが、それでも移動音は小さくならない。
移動音がもう間近に迫り、もう駄目かもしれないと諦めかけた刹那——、
「なっさけねェぞぉオラアァァァァァ!」
遥か上空から、渋い男の怒号が聞こえた。ほぼ一言に聞こえた。続いて、何か硬いものがぶつかり合う金属音が連続して聞こえる。移動音が少しずつ小さくなり、ムカソリの移動速度が鈍ったのかもしれないと思ってアイリスは振り向くと、スカーのフォンとザンクとジオットが、どう上ったのかスクラップの重なりで出来た、壁のようになっている所の頂上から狙撃銃やら機銃やらをムカソリに撃ち続けていた。幾分かは効いているようで、弾丸が当たるたびにムカソリの動きが鈍くなっていく。
狙撃中を乱射している三人のリーダー的な存在である、フォンがアイリスたちに遥か上空から怒鳴り散らした。
「おい、テメェら! 俺ら以外の便利屋はそいつに食われた! 俺らだけじゃ手に負えねェ。だからテメェらも手伝いやがれ……!」
——でも、どうすれば。ムカソリが地中移動できるということは、それに耐えられる装甲とタフさを持っているわけで、スカーの三人が撃っているのも、獅子に冷水をかけて驚かせるのことと同等の行いだろう。機械の身体でも、結局は魔物であり、精神はあるわけだから、恐らく怒りを溜めていることだ。致死性はないものの、鬱陶しいことには違いないのだ。怒るのは必然といっていい。問題はその後、怒りを爆発させ、ムカソリが暴走してきたらもう乱射の意味もなくなってしまう。つまり、今のうちに三、四回の攻撃でこのムカソリを行動停止にさせなければならない。
アイリスが悩んでいると、ふと黒峰が口を開く。
「そうか……」
「何?」
アイリスが聞き返す。
「機動力、で御座るよ。フーリー殿」
黒峰が、ムカソリの胴体の真ん中の辺り、青色の間接部分が剥き出しになっているところを指差した。
「あそこに全員で集中して攻撃を当てれば、あの機械の機動力を削ぐことが出来るで御座る。即ち、以後の反撃の心配は必要なくなるで御座る」
黒峰の提案に、アイリスは「なるほどな」と言って頷く。
「まあ、とりあえず、それで行ってみるとするか……!」
二人が構える。二人の腰から抜かれた高周波斧と神刀が、太陽光でその刀身を煌めかせた。