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Re: ロンリー・ジャッジーロ 第二章-5 ( No.44 )
日時: 2010/05/08 15:18
名前: こたつとみかん (ID: VmxYa/ch)
参照: 間を置いてしまったので、二話掲載です!

第二章『大仕事』⑥ 

 アイリスは上で乱射をしているフォンたちに作戦内容を手短かに伝える。それを聞いたフォンたちは一度乱射をやめ、そして再装填した。
 弾幕がなくなり、自由に動けるようになったムカソリは、もう一度アイリスと黒峰の位置を確認し、先程と同じ速度で移動してきた。そして、向かってきたムカソリの頭の部分が結構広い所に出たとき、
「——今だ、黒峰!」
「承知……!」
 アイリスの合図と共に、アイリスと黒峰はそれぞれ左右に、ムカソリの突進をすれ違うように避けつつ両サイドを取った。ムカソリはそれに即座に反応できず、頭だけを狭い通路に出してしまった。広い所には無防備な状態の青色の間接部が丸見えになってる。——仕掛けるなら、今しかない。
「吼えろ、サタン……!」
「斬刻(斬り刻め)、将門(マサカド)……!」
 回路に魔力が流れる。アイリスはいつも通り赤黒い魔力で、黒峰は左手の甲に透き通った翠色の魔力が三日月のような形の回路に流れた。回路に流れる魔力の色が透き通っているほど、その術者の持つ魔力が純粋であることを示している。翠色の魔力は風(ヴァーユ)の属性だ。ちなみに、黒峰は東州神国出身だが、幼い頃にヴィ・シュヌールに来て育ったので、母国で神鬼導を教わっておらず、使用するのは普通の魔導だ。
 黒峰の契約精霊、マサカドは古代の東州神国の名称のひとつ、日本の古代書物の『俵藤太物語』において、その存在は次のように記されている。「その有様は世の常ならず。身長七尺(二一二センチ)に余りて、五体は鉄の如し。左の御眼に瞳二つあり。将門にも相も変らぬ人体同じく六人あり」と。つまり、矢傷ひとつ受けぬ鉄の身体を持ち、左目にはふたつの黒目があり、見紛うばかりの影武者が六人いたという。鉄の身体を持つマサカドの唯一の弱点は、こめかみであった。その後、獄門にさらされたマサカドの生首を見たある数奇者が、こめかみを斬られたことを歌に詠むと、マサカドの首は「しぃ」と笑ったという。そして、その生首はいつまでも腐ることなく、眼を閉じることもなく、その上、「躯をつけていま一戦させん」と叫んだという。さらに、胴体を求めて首は飛んだ。日本にあった浅草の鳥越神社は、首が飛び越えた地であり、新宿の津久戸明神は射落とされた首が力尽きて落ちた地だという。古代の最後に首を祀るは、千代田区大手町の首塚。鎮魂の供養と怨念の祟りとは、表裏をなして、古代に続いたという。
「謳え汝ら愚者の如く。木っ端芥の華の生命を。悪魔よ廻せ。秒針をサカサマに、魂をサカシマに、世界をヨコシマに……!」
「返答、叫声我。持烈風汝、拓先道。魅今、龍牙、片鱗……!(答えろ、我の叫びに。汝の烈風をもって先の道を拓こう。今こそ魅せてやる。龍牙の片鱗を……!)」
 アイリスの高周波斧には炎刃・闇焔が発生し、大剣を作り上げる。東州神国の言語で詠唱した黒峰の周りの気流が変わる。これは風(ヴァーユ)の属性の魔導の威力を上昇させる『旋風領域』だ。間を置かずに二人は詠唱を行う。
「永遠に狂え。悪魔の輪廻よ……!」
「乱狂。野咲、毒花弁……!(狂い乱れよ。野に咲く、毒の花弁よ……!)」
 ——追加詠唱。一度詠唱し発現させた魔導に、更に魔力を込めてその威力を上昇させるか、そこから別の魔導に派生させることだ。今の二人の場合、この意味は後者である。
 アイリスは力を溜め込むように黒炎をまとった高周波斧を後ろに構え、黒峰は神刀の刀身を鞘に収めたままの状態で柄に手を掛けて構えている。いわゆる『居合い』の状態だった。
 そして、一瞬の静寂の後、
「……くたばれ、デカブツ」
——誰かが言った。


ぶんかーつ!