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Re: ロンリー・ジャッジーロ 第二章-5 ( No.45 )
日時: 2010/05/08 15:23
名前: こたつとみかん (ID: VmxYa/ch)
参照: 間を置いてしまったので、二話掲載です!

 それを合図として、アイリスと黒峰はそれぞれ自分の武器を思い切り振りぬいた。ムカソリの青色の間接部目掛け、アイリスは黒色の炎の刃『闇牙』を、黒峰は疾風の刃『空牙』を放つ。それは単発性ではないため、振りぬく度に発生する。
 スカーの三人も、フォンの掛け声と共に再装填した狙撃銃やら機銃やらを乱射する。間接部が青色のため、それを踏まえてフォンは声を出しているようだが、何だか奇妙だ。
「青! 青! 青! 青! 蒼! 蒼! 蒼! 碧! ブルー! コバルト! ……『さかなへん』に『ブルー』と書いてェェェ……、」
 弾幕で煙が舞い、よくはムカソリの間接部を確認出来ないが、あれだけの巨体だ。少し見えなくても外れはしないだろう。一頻り攻撃した後、仕上げとして全員が渾身の一撃を放つ。
「『鯖』(サバ)アァァ……!」
 闇牙が、空牙が、弾丸が間接部を直撃する。
 煙で完全にムカソリの間接部が見えなくなったころ。出せるだけの魔力を出し切り、息切れを起こしていた黒峰がフォンに言った。
「フォン殿。……ゼェ……『さかなへん』に『青』のサバは……ハァ……俗字で御座る。正しくは……ゼェ……『さかなへん』に……ハァ……『靑』で御座るよ」
「細けェこたァ気にすンな。禿げンぞ」
 フォンがにやりと笑う。
 煙が段々薄れていき、そこに在るのはムカソリの残骸だろうと誰もが思ったとき、——その煙に紛れて、二本の光沢のある灰色の鋏がアイリスを襲った。
 アイリスは鋏を避けようとしたが、鋏の機動性がアイリスの想像のそれを遥かに超えていたため、避けきれず高周波斧で思わず防ごうとしてしまった。勿論、体格差の時点でそれは叶わない行動だとは頭では理解していたが、危機的状況での反射行動は抑えられなかった。
 高周波斧は一本の鋏を押さえるだけで精一杯どころか、押さえること出来なかった。高周波斧はたった一本の鋏に弾き飛ばされ、アイリスの遥か後ろに落ちた。ばきり。——壊れたか。アイリスは悔しそうに歯軋りをする。だが、それだけでは終わらない。鋏はもう一本あるのだから。
 もう一本の鋏は、少し下に傾きながら真っ直ぐアイリスへ向かっていく。それが地面に突き刺さる寸前でアイリスは後ろに跳んで回避したが、鋏が勢いよく地面に刺さったことで発生した鉄のつぶてがアイリスの腹に直撃した。
「か……っは……」
 最早呼吸すら出来なかった。バランスを崩して地面に倒れたアイリスは腹を押さえてうずくまる。その身に受けた。そのつぶての威力は、そこらの大男のちょっとしたボディブローのそれに匹敵する。普通の人間なら軽く昏倒する代物だ。それでアイリスの意識が飛ばなかったのは幸いだった。
 ようやく立ち上がると、鋏は二本ともアイリスの視界にはなかった。——どこだ。見渡すが、立ち上る硝煙のせいで位置が確認できない。動いている音は聞こえるが、絶えず動いているのか、聞くたびに聞こえる方向は違っていた。大方、隙を狙っているのだろう。暫くしてその音も止む。視覚にも聴覚にも頼れなくなり、焦燥感と共に一筋の汗がアイリスの頬を伝ったとき——、
「アイリィ! 後ろ……!」
すごく聞き覚えのある声が、アイリスの耳に伝わった。しかし、それを再確認する暇などなかった。だが、アイリスはその声に従うことにした。前に伏せるように倒れこむと、衣服の背中を掠って何か通っていった。見なくても判った。間一髪だった。
 ——今の、声は……? いや、まさか。彼女がここに来れるわけがない。だが、あの声を聞き間違えるはずがない。もっとも近くで、もっとも多く聞いてきたのだから。硝煙が完全に空気中に消え去り、視界が戻ると、アイリスは声のした方向を見る。——よもや、まさか、こんなことが……! 薄い緑色の髪の毛。淡い青色の瞳。気弱そうな表情。間違いなかった。声の持ち主はニーベルだ。熱がまだあるのか、顔はほんのり赤い。息遣いも荒く、かなり無理をしているようだった。
「アイリ……。大丈……夫……?」
 ふらふらと近づいて来たニーベルは、虚ろな表情でアイリスを見つめていた。