ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第二章-5 ( No.46 )
- 日時: 2010/05/08 14:59
- 名前: こたつとみかん (ID: VmxYa/ch)
- 参照: よく見たら、参照二百越え!?
第二章『大仕事』⑦
ニーベルはおぼつかない覚束ない足取りでアイリスの元まで歩いていき、近くまで来たところで一瞬ニーベルは意識を飛ばし、アイリスの胸に倒れこむ。アイリスはそれを支えるように抱えた。身体を触って判る。高熱だ。
「どうして……?」
ニーベルはその問いかけに答えようと顔を上げる。ゆらゆらと淡い青色の瞳が焦点が合ってないように揺れているが、その瞳にはしっかりとアイリスが映っていた。
「だって……、アイ、リが書き置き、してたじゃ、ない・……。だから、第三工場にいた武器製、造師の人たちに、会って、ここに行ったって、言って、たから……」
「ベル……」
自分の書き置きのせいで、ニーベルをここへ来させてしまった。その罪悪感が、アイリスの胸を痛ませる。しかし、その感傷に浸っているわけにはいかない。今は、戦闘中なのだから。
ムカソリが一旦攻撃を止めて、壊れかけた胴の間接部分を事故修復していたので助かった。今のやり取りを狙って仕掛けてこられたら終わりだった。とはいえ、戦況は特に好転したわけではなく、むしろ悪転に近かった。アイリスの高周波斧は壊されたし、魔力もほとんど尽きている。黒峰もほぼ同じ状況だ。スカーの三人の残弾も残っているのかどうか、恐らく残ってはいないだろう。頼れるとしたら、この高熱でふらふらと支えなしでは立つこともままならない、ニーベルしかいなかった。——けれど……。
そんなアイリスの思考を読み取ったのか、ニーベルは辛そうに微笑んで見せた。
「大丈、夫……。心配、しないで……」
それからニーベルはアイリスの胸から離れ、ムカソリの前に立ちはだかった。胴の間接部分の事故修復も程々に、ムカソリはニーベルを「敵」と認識して攻撃態勢をとった。そして威嚇のつもりか、ムカソリは思い切り、吼えた。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……!」
その大気をも揺らす咆哮に屈することなく、ニーベルは静かに杖を握る手にもう片方の手を添え、それを顔に近づけた。そして、祈るように眼を瞑り、一言——。
「おいで、ユノ……!」
ニーベルの首筋にある鳥の羽のような魔力回路が、銀色の混ざった薄い緑色に光る。ニーベルの持つ魔力は、水(ヴァルナ)と風(ヴァーユ)である。
ユノは古代神話のひとつ、ローマ神話の主神ユピテルの妻にして、家庭や結婚を司る女神だ。ギリシア神話のヘラと同一視されることもある。その名は古代より六月を意味する「JUNE」の語源と言われ、六月の結婚をジューンブライトとして祝福する瞬間する習慣も、この女神の加護があるという言い伝えからきたものだ。また、古代では二月十四日はバレンタイン・デーとして有名だが、この日は元来ユノの祭日であった。これらの情報から得られるイメージは、家庭的な女性、献身的な妻といったところだろうが、神話上のユノはそれほど甘くはない。奔放にニンフや人間との情事を楽しむユピテルに恐ろしい罰を与え、相手の女性にまでも呪いをかけたと伝えられる。そのため、実力は主神のユピテル以上とされるが、女神ユノだ。女性の持つ自愛と厳格さ、その二面性を如実に表した神格である。
分☆割!