ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第二章-5 ( No.47 )
- 日時: 2010/05/08 15:05
- 名前: こたつとみかん (ID: VmxYa/ch)
- 参照: よく見たら、参照二百越え!?
「遥か、高みの山に、咲き誇る、野の華よ。必然たる、美しさを、万物の頂点より、魅せるがいい。罪深き、高嶺の華よ。うららの風に、その身を揺らせ……!」
高熱で意識が朦朧としていて、詠唱も途切れ途切れだったが、なんとか精神集中は出来たようだ。魔導の発現は成功したようで、ニーベルの周りの空気の流れが変わる。この状態は先程の黒峰の旋風領域に似ているが、別物だ。ニーベルを中心に、少し暖かい微風が段々と範囲を広げてくる。これは微風の範囲内にいる者の気配を必然的に思考に展開させ、その先数秒の予測される行動をイメージさせる『微風の噂』という上級魔導だ。これはアイリスも始めて見る魔導だった。
ニーベルがゆっくりと眼を開く。微風に当てられて少し気が楽になったのか、さらに強い意志を持った瞳でムカソリを見据えた。
ムカソリが躊躇なく右鋏をニーベルに振り下ろす。ニーベルはその気配を、微風を通して肌で感じ、思考に展開させる。
「遅い、です……!」
ニーベルは振り下ろされた右鋏を完全に見切って避け、ムカソリの懐に潜り込もうとした。しかし、ムカソリもそれを簡単に許すはずもなく、残っている左鋏をニーベルの右から差し込むように繰り出した。
「流れよ光、滅びよ魂、蘇れ骸と魔女は。獅子は。巫女は吼えた。今こそ、乱れなさい。ただ祈り願う、儚きさだめたちよ……!」
先程より途切れも少なく詠唱を終え、ムカソリの左鋏を迎撃するべく杖を右側——ではなく、何を血迷ったのかムカソリの右側の足に向かって杖を向けた。銀色の光と共に、氷嵐波が放たれる。地面から氷の棘の集合体が生えながら、波のようにムカソリに向かって走っていった。そのニーベルの隙だらけの右側から、容赦なくムカソリの左鋏が襲ってくる。
そのままなら左鋏がニーベルの身体を右側から貫いたはずだが、そうはならなかった。ニーベルの右半身の数十センチの所で、急にムカソリの左鋏が動きを止めた。一見ムカソリが動きを止めたように見えるが、違う。目を凝らして見ると、うっすらと翠色の障壁が鋏を防いでいた。——『風障壁』。基本中の基本の魔導で、ビギナーが最も早く習得できる魔導であるが、ニーベルはそれのための詠唱を行う素振りを見せていなかった。しかし実際に発現されていて、障壁はその役割を果たしている。考えられるとすれば、『無詠唱魔導』しかなかった。
無詠唱魔導は詠唱を行わずに精神集中を行い、魔導を発現させることだが、それが可能な者はごく限られていた。恵まれた環境、恵まれた才能を持ち合わせた上で、長年魔導について研究することで初めて可能になると、アイリスは聞いていた。だが、高熱で意識が朦朧としているニーベルが可能にしてしまった。これで確信するしかなかった。ニーベルの魔導の才能は、人並みのそれを超越している。
「湧け。恵みをもたらす、生命の雫よ……!」
ニーベルはムカソリの左鋏に目もくれず、放ったばかりの氷嵐波に追加詠唱を掛ける。ムカソリの右前足数本に当たった氷嵐波の先から、水で出来たの手のような魔導『水手』が現れ、ムカソリを腹の下から押し上げる。そして、ムカソリはそれにより体勢が崩れ、鋏で防ぐことも出来ず、ニーベルが右の腹下に潜り込むことを許してしまった。
「穿て。風の皇の神器武装よ。不屈の闘志を持ってそれを手に取ろう。さすれば勝利の道は拓かれん。絶対貫通、絶対破壊の武装を、今こそ我が手に……!」
ニーベルは杖を突き刺すようにムカソリの腹へ出す。
「いくら装甲が硬くても、内側からなら……!」
杖の先から翠色に輝く槍が発生し、それが次第に巨大になっていく。それがムカソリの腹から突き刺さり、貫通して頭の辺りからその槍の先端が現れる。かつて神槍と謳われた槍のひとつ、ゲイボルグの名前を取って名づけられた、『風精の巨槍』という微風の噂以上の上級魔導だ。風精の巨槍を受けて、その衝撃でムカソリの身体は空中に浮き上がり、その状態のままショートを起こし、ムカソリは爆発した。装甲やら部品やらがそこらに四散する。
集中が切れたのか、ニーベルはその場で倒れ伏す。爆発したムカソリの真下にいるため、残骸が燃えながらニーベルに降り注ぐ。アイリスは助けに入ろうと走り出そうとしたが、ダメージの残っている腹が痛み出し、動けなかった。
「ベル……!」
尖った残骸がニーベルの身体を貫く寸前、空気を切り裂く音が聞こえ、続いて硬い物がぶつかり合う金属音が響く。それは残骸に当たり、弾き飛ばされて壁に突き刺さった。細く、曇りひとつない刀身。神刀だ。
「間一髪、で御座ったな」
黒峰が安堵してため息をつく。
アイリスは急いでニーベルに駆け寄り、肩を持って支え起こす。触れた肩はさっきより熱くなく、汗をかいていたので熱は下がったようだ。ニーベルは起こされ気がついたようで、アイリスの顔を見ると優しく微笑んだ。今度はあまり辛そうには見えなかった。
「ほら、ね。大丈夫だったよ……」
そのまま、ニーベルはアイリスの胸へ飛び込んだ。
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〜お知らせ〜
おーいえ!
このスレを見てくれている心優しい人へ。
以前開始したオリキャラ募集ですが、今日から一週間、五月十五日の正午付けで終了とします。まあ、投下する人ももういないでしょうけど^^
とりあえず、そういうことで。
こたつとみかんでしたっ!