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- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第二章-8 ( No.62 )
- 日時: 2010/08/06 16:19
- 名前: こたつとみかん (ID: eMnrlUZ4)
- 参照: おーいえ(‾∀‾)
第二章『大仕事』⑨
ニーベルに肩を貸しながら歩いていたアイリスと、ふらふらと歩く黒峰、スカーの三人がヴィルバーと別れた場所に行くと、ヴィルバーの足元でアイビーが倒れ伏しているという光景があった。
ヴィルバーがこちらに気がつくと、悲しそうに笑ってしてアイリスたちの方に身体を向ける。なにやら手に持っていた短い棒状のものから青い光が出ていたが、ふっと消えた。
「……ああ。そっちも終わったっスか」
アイリスは「ああ」と答える。——それよりも、今のは……? それについて聞くと、ヴィルバーは苦笑した。
アイリスはヴィルバーの魔導のことを聞いた。少し驚いたが、戦闘の指南をしてくれた人がいたということで納得した。——それなら、あの戦闘能力についても納得出来るな。と。曰く、さっきの魔導は斬りつけた者の意識に干渉し、精神的な攻撃をする『虚言の剣技』という魔導らしい。
フォンがヴィルバーの後ろ、倒れているアイビーに眼をやって言った。
「そいつか。追跡者は。ここに来る途中聞いた」
フォンがアイビーに近づき、その首筋に指をやる。とくん、とくん、という鼓動を確認すると、「生きているな」と一言。そしてアイビーの襟首を掴み、軽く平手で頬を何回か叩き、意識を呼び戻そうとした。——容赦ないな。アイリスは一瞬止めようかと迷ってたが、相手は追跡者の上、アロウズだ。同情の余地はない。
「…………。……ん……」
暫くして、アイビーが目を覚ます。アイビーは最初状況が飲み込めていなかったが、目の前にいる便利屋たちを確認して理解したようで、諦めたように目を伏せた。先程まで狂喜しながら電動鋸を振り回していて気がつけなったが、こうしておとなしくなったアイビーを見ると彼女が相当の美人だと判る。
フォンは優しさの欠片もない表情でアイビーを睨む。
「テメェには俺らも随分と世話になった……。覚悟は、出来てンだろうな?」
「ええ。もとより、ですわ」
その後フォンはアイビーを強引に立たせ、襟首を掴んでいない左手を引いた。恐らく、中央地区の便利屋たちの政治を牛耳っている、有力な便利屋のチームに引き渡す前に思う存分殴るつもりだろう。
その拳がアイビー目掛けて放たれようとしたとき、
「待つっス」
ヴィルバーが、制止した。
「ンだよ……?」
フォンが明らかに嫌そうな顔をした。それに負けずにヴィルバーが言う。
「その娘、懸賞金はいくらなんスか?」
「は」
アイリスは思わず間の抜けた声を出してしまった。フォンやザンク、ジオットも同じで、四人揃って妙なハーモニーを創り出していた。
ヴィルバーが続けようとする。フォンの剣幕に怯えているようで、その声は震えていた。
「だから、懸賞金っスよ。何ダルズ掛けられてるんスか」
「そりゃ、お前」
フォンは想定外の質問に戸惑いながら、アイビーに掛けられた懸賞金を思い出す。
「二十万ダルズだけど……」
ヴィルバーは握っている拳を更に強く握り、顔を上げて便利屋たち皆を睨む。相変わらす、身体は恐怖で震えていた。だが、その眼には強い覚悟を宿していた。——「勇気を振り絞る」という言葉はの意味はこういうものなのだろうか。そうアイリスは実感した。
「なら、二十五万。いや、三十万ダルズ払うっス。……だから、その娘を解放してやってくれないっスか?」
誰もが、絶句した。追跡者を庇うことはもとより、懸賞金以上の金を払って解放させてやる馬鹿など今まで見たことがなかったからだ。アイリスやスカーの三人は開いた口が塞がらないほどの驚愕だったが、黒峰とニーベルは特に驚きもしなかった。それどころか、どこか嬉しそうに二人とも微笑を浮かべていた。——何なんだ、その意味ありげな笑みは。
我に返ったフォンは頭を掻きながら、アイビーから手を離す。アイビーがすとんと座りこむ音と同時に、困り果てたような表情でヴィルバーを見る。
「あのな、確かにそれぐらいの額もらえりゃ手配は簡単に消えンだけどよ……、」
今度はアイビーを睨む。
「俺らが受けた屈辱は簡単には消えねェンだよ。」
代わりに一発殴られるという条件で解放する。フォンはそう提案した。
フォンはヴィルバーが怖気づいて取り消すか、ないしそれでも解放を求めるかのどちらかを意図したのかはアイリスには判らない。しかし、雰囲気的に彼の判断に従うしかなかった。それがたとえ、相手が憎くてたまらない存在の直属の暗殺者だとしても。
数秒の沈黙の後ヴィルバーは口を開く。
「……判ったっス」
それに満足したように、フォンが頷く。
フォンが左腕を、すっ、と後ろに引く。
フォンが左拳を、ぎゅっ、と握り締める。
フォンの左足が、じゃり、と地面を踏みにじる。
「歯ァ、食いしばれ……!」
ぶおん、などと素人が放ったストレートのような音ではなかった。しゅっ、という空気を切り裂く音がフォンのストレートの音だった。
分割します。今回は長いですよー^^