ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第二章-8 ( No.64 )
- 日時: 2010/05/18 19:42
- 名前: こたつとみかん (ID: UGkC/3vC)
- 参照: おーいえ(‾∀‾)
その右肩を、ヴィルバーが掴む。
「……!」
アイビーが驚いたように振り向く。これはヴィルバーにとっての無意識による行動だったらしく、掴み、アイビーが振り向いた所で自分がどういうことをしたか理解した。
「あッ……! えと……」
ヴィルバーは熱湯に触れた手を急に引くみたいにアイビーから手を離した。そして混乱しながらも、頭の中で何を言えばいいのかを必死に探そうとする。その様子はとても滑稽に見えた。
やがて言葉が見つかったのか、ヴィルバーが笑う。
「そ、そうだ! アンタの電動鋸壊しちゃったし、今度直させてくれないっスか? もも、勿論タダで!」
アイリスのみならず、傍観者全員が呆れただろう。——そこは、デートでも何でも誘うべきだろう……! ニーベルも苦笑いをしていた。
そんな慌てふためくヴィルバーの様子が可笑しかったのか、アイビーは軽く吹き出して笑った。今度は狂っているなどと微塵も思わせないような、まさしく『少女』の笑い方だった。
「……考えておきますわ」
その笑顔にヴィルバーも頬を紅潮させつつ、釣られて笑う。
笑い終えたアイビーは顔を上げ、眼をそらさずにしっかりとヴィルバーを見据える。そしてその頬を少し赤らめながら微笑みかけた。先程の乙女のような笑い方といい、今までの笑い方とは一線を画す笑い方だった。そしてその笑い方はあり得ないほど似合っており、加えて顔を赤らめているものだから、その破壊力は計り知れない。
アイビーが指を絡めながら、「やはり恥ずかしい」とでも言うように俯く。それでもその眼はヴィルバーの顔を見ているものだから、結果上目遣いとなり、それは更にヴィルバーの顔を赤くさせた。
「ヴィルバー……って言いましたね、貴方。あの、私やっぱり、お礼は……、言っておきますわ」
ヴィルバーの手をアイビーが両手で掴む。そして、一言。
「ヴィルバー……さん。……ありがとう」
——聞いているこっちが恥ずかしくなるな。アイリスは連鎖的に顔を軽く赤くさせ、半ば呆れた様子でふたりを見守っていた。
アイビーはヴィルバーの手を離し、その場にいるのが耐え切れなくなったのか、何も言わずに走り去っていった。
ヴィルバーはというと、何が起きたのか判らずにフリーズしていた。いや、むしろ脳内の要領が今のでパンクし、思考停止を起こしているのかもしれない。——そんなことよりも、だ。
「デルブライト」
「は、はひッ?」
電源入れたての電灯のようにヴィルバーが返事をする。
「私の高周波斧の壊れたんだ。直してもらえないか? 勿論、金は払う」
ぶんぶんと手を振りながら「滅相もない」とヴィルバー。
「そ、そんな。別に御代なんて要らないっスよ! 承るっスよ。フール……リーさん!」
まだアイビーの件での余韻が残っているらしく、ヴィルバーは色々と滅茶苦茶に返事をする。アイリスの嫌う、「フール」という呼び方も言ってしまった。
本来なら殴ってもう間違えないようにさせてやるのがアイリスだったが、不思議と怒る気になれなかった。
アイリスはヴィルバーの元まで歩いていき、その手に壊れた高周波斧を乗せる。そして拳を握り、それをヴィルバーの胸に軽く当てる。
「フールでいい。よろしく頼む。……ヴィル」
これにはヴィルバーは無論のこと、ニーベルさえも驚いていた。アイリスが男性を親しく呼んだり、呼ばせたりすることは今までなかったからだ。
「判ったっス。……フール。出来次第、もって行くっスから、家の場所教えて欲しいっス」
アイリスは住所を詳しく教える。ヴィルバーはそれを一言で理解したようだ。それから帰ろうとすると、黒峰の姿がなくなっていることを確認した。
「ベル、黒峰は?」
そう聞くと、いつの間にかいなくなったと、ニーベルも気がついていなかったように返答する。別にいなかったからどうこうなるわけでもなく、「ああそうか」だけでも済ませられるのは黒峰に失礼だろうか。
「じゃあ、行こうか」
ヴィルバーに別れを告げ、アイリスはニーベルと共に機械の魔窟を後にする。その際、上空が大きく開けている構造の機械の魔窟の空から、ほのかに赤くなった日の光が魔窟内に差し込み、それが反射して綺麗な光が魔窟内を照らした。
第二章『大仕事』終わり