ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-2 ( No.82 )
- 日時: 2010/06/11 16:40
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: 5yJleevy)
- 参照: 時間が欲しいなぁ…orz
第三章『鐘の戯言、菖蒲の羞恥』③
ヴィ・シュヌール中央地区西通り商店街の端。ここは喫茶店などの休憩所が立ち並ぶ場所だ。その中のひとつの店、『朱雀門』という東州神国風の喫茶店にアイリス、カイ、リースの三人はいた。
朱雀門の店内は薄暗く、大人っぽい雰囲気が漂っている。かといってここは喫茶店なので、家族連れや若い男女などが気軽に入店出来るようになっている。
三人は木で出来た四つの椅子が取り囲むように設置されたテーブルを囲むように木の椅子に座っているが、それぞれ口をつぐんでいるので、他の客のテーブルと雰囲気が異なり、とても暗く感じられた。
その様子を見るに耐えなくなったのか、朱雀門の店主、リーイン・チャン・スアンコウが品書きを持って話しかけてきた。
「どうしたの? アンタたち」
「あ、姉御……」
アイリスが「救われた」とでも言いたげにリーインを見る。
リーインは十数年前からこの朱雀門を一人で経営している。気風のいい姉御肌で客に接し、さばさばとした性格と友好的な態度で、客たちからは『姉御』と呼ばれ慕われている。ただ三十三という年齢で男の一人も出来ないことを気にしていて、厚化粧に露出度の高い服を愛用し、本人曰く魅力的な少し焼けた肌でいい男を捕まえようと努力しているらしい。もしその地雷を踏んだなら、何時間もそのことについて愚痴を聞かされる。流れる金髪は黒髪を染めたものらしい。
リーインは乱暴に品書きをテーブルの上に投げ置き、開いていた椅子に座った。
「まったく。傍から見ててイタいわよ? せめて注文くらいしなさいよ」
呆れたように言うリーインに対して、申し訳なさそうにカイが「すまないな」と苦笑する。
そのカイを見て、驚いて眼を見開いたのもつかの間、リーインは目にも留まらぬ速さでカイの後ろに立ち、気が付いて振り向く間も与えずに首に両腕を回して顔を近づけた。
「ああん、カイったらぁ。暫く見ないうちにこんなにいいオトコになっちゃってぇ……。うふ、いいわぁ〜」
数センチとない程近くにいるリーインの吐息が首筋に当たり、カイは戸惑うどころかむしろ全身に鳥肌を立たせて青くなった。その反応に、リーインは残念そうに口をとがらせる。
「相っ変わらずつれないわねぇ。ふんだ。……で、アンタたち注文は何にするのさ。ていうか、もう紅茶でいいわよね。面倒くさいし」
へそを曲げたリーインは注文すら自分の都合で決めようとする。本来、普通の客なら憤慨して訂正させるか帰ってしまうところなのだが、アイリスたち、リースはどうなのか知らないが、リーインと仲良くしている常連であり、何より、朱雀門の店主を本気で怒らせるとどうなるかを良く知っているため、そういう気分にはならなかった。
店の奥に向かって顔を向け、カイを後ろからハグしたまま「店員さーん! 注文!」と声を張り上げるこの店の唯一の店員の様子を見て、アイリスは少し、というか思いきり不思議に思った。
「あれ? 姉御、どこに向かっていってるんだ。ここの店員は姉御だけだろう?」
するとリーインはアイリスの方、カイが座っている席から右の方を向いて「ふふ」ウィンクして笑った。
「実は、最近アルバイトを雇ったのよん。それもすっごい美人の。ま、このアタシの完成された美貌には敵わないけどね〜」
リーインはそう言って豪快に笑う。——いつもながら、その溢れ出る自身は何処から来ているんだろう。アイリスもつられて少し笑った。
少しして、店の奥からエプロンドレスを着た灰髪のショートボブの美少女が慌ただしく歩いてきた。黒を基調としたフリルが付いた服と、ヘアアクセサリとしているミニハットが目立った美少女だった。
アイリスはこの美少女に見覚えがあった。というか、ないわけがなかった。つい先日、お互いの命を本気で取り合ったのだから。
アイビー・スィンス・ハーバート。アロウズの暗殺者である彼女が、何故かここにいた。だが、アイビー自身はアイリスに全く気が付いていないようで、ぎこちない動作で注文を取ろうとしている。
「ええと、い、いらっしゃいませ。ご注文をうけたまわ……って、あれ……?」
注文を書き取ろうと紙を手に取り、椅子に座っている客たちに目を向けたたった今、ようやく気が付いたようだ。
「アイリスさん……?」
「……アイビー」
かつてアイリスはアイビーがアロウズの暗殺者だと聞かされたとき、問答無用で斬りかかったことがある。しかし、今は違う。
あのときは冷静さを失っていたし、何よりアイビー自身がヴィルバーと出会って変わったことが大きな理由だった。——あれから、ヴィルとはどうなったんだろう。普段のアイリスは人の恋路に首を突っ込むような人間ではないが、何故かその二人の関係にはとても興味があった。
アイビーは何か居心地悪そうにアイリスと目を合わせずにいた。恐らくは、命を奪おうとした相手にどう接していいか判らないのだろう。
対するアイリスはもう気にしてなかったので、この雰囲気をどうにかしようと考えていたところ、とりあえず笑いかけようという結論に至ったが、如何せん。アイリスは作り笑いがそこまで上手ではなかった。
「ええと、……紅茶、三つ」
ぎこちない笑顔であったが、どうやら緊張はほぐれたようだ。アイビーの表情は幾分か明るくなり、「判りましたわ」と優雅に微笑んで頭を軽く下げた。——本意で、笑ってる。
アイビーが立ち去ろうと店の奥に戻ろうとしたとき、アイリスはふと頭の中にひとつの疑問をよぎらせ、引き止めて聞いた。
「アイビー。何でここにいるんだ? …………本職なら、アルバイトなんかしなくても……」
——アロウズだなんて、口が裂けても言うもんか。と言うことで、アイリスはわざわざその部分を伏せて聞いた。
分割ですよい(゜Д゜)