ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-2 ( No.83 )
- 日時: 2010/06/11 16:40
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: 5yJleevy)
- 参照: 時間が欲しいなぁ…orz
その質問に対し、アイビーは振り向いて悪戯に笑って答える。
「私がアロウズの暗殺者を辞めたから、ですわ」
アイビーが続ける。
「とは言っても、アロウズ自体を抜けたわけじゃないですけど。先日、ヴィルバーさんに会って言われましたの。『キミが人を殺して欲しくない。可愛い顔が台無しになる』って」
そこまで言うと、急にアイビーは頬を染めて恥ずかしいのか悶えだした。どうやら、アイリスが知らないところで二人の距離はかなり近くなっているようだ。——何だ。二人とも恋愛音痴だと思っていたけど、気にするまでもなかったか。……にしても、ヴィルのセリフのクサさといったら一級品だな。
アイリスとアイビーの間の和やかな雰囲気を破るように、カイが自分の席から立ち上がった。その表情は真剣そのもので、自分に抱きついたままのリーインを丁寧に剥がし、そのリーインに話しかける。
「……なあ、姉御。この娘を借りたいんだが、いいか?」
シリアスな雰囲気を保ったまま話かけられたリーインは少し考えた後、にやりと笑って答えた。言葉遣いこそふざけているものの、目と声色は一切そうではなかった。カイを思い、空気を読んでのことだろう。
「いいわよん。……でも、取って食べたり泣かせたりしたら、許さないわよ?」
カイは一言礼を言い、それからアイビーに近づいていってアイリスに聞こえないように耳打ちした。
「聞きたいことがある。サジ、……いや、お前のボスについてだ」
アイビーは一瞬驚いたような反応を示して復唱しようとしたが、カイが全身から発する威圧感とアイリスが近くにいることで、それが口から出ることはなく、取った行動は首を縦に振ることだけだった。
——何だ、今のは……? アイリスは店の外へ出て行くカイとアイビーに目をやっていたが、こつんと硬い物で軽く頭を叩かれた。見ると、リーインが呆れたような顔で品書きを持って見下ろしていて、
「さっきからずっと見てたけど、アンタの相手はカイじゃなくてこっちでしょ。いつまでも脱線してたら可哀そうじゃない」
と、先程から一言も喋らずに空前の虚無感を放っていたリースを指差す。「忘れてた」とでも言いたげにアイリスが申し訳なさそうな顔をした。
リーインが二人から離れて店の奥へ戻っていき、去ったはずの痛々しいほどの沈黙が再び現れる。が、埒が明かないと判断したアイリスは苦笑交じりにリースに話しかけた。
「……別に、お礼なんていらないから」
突然の発言にリースはビクッと驚いていた。そしてゆっくりと言われたことを理解し、ぶんぶんと首を横に振った。
「い、いえいえいえ! そんなんじゃウチ、申し訳なくて顔から反吐が出ますですぅ!」
不自然な語彙の使い方で喋りながらリースはそう言った後、今度は力なく俯いて呟いた。
「……それに、ええと、貴女……」
「アイリスだ」
「あ、すみません……。あの……アイリスさんが『いい人』だと見込んで実はもうひとつ、頼みたいことが……」
リースが一拍置いてそのことを言おうとしたとき、何か叩きつけられる大きな音が、朱雀門の出入り口の扉より聞こえた。そのことで、リースの言おうとした「頼みごと」はかき消された。
「いやがったぞ! さっきの生意気なガキと銀髪だ……!」
不愉快な声と共に扉より現れたのは、リースと出会ったときにいた、あのモヒカンヘアの男と仲間と思われる男たちだった。