ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-3 ( No.85 )
- 日時: 2010/08/06 16:32
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: eMnrlUZ4)
- 参照: お待たせいたしました!
カイは男たちより低い体勢で走りながら数人の中心に潜り込み、ダガーナイフと小神刀で男たちのふくらはぎを斬る。そうしてバランスを崩して地面に膝を着こうとしたときに、カイは右手を地面につき、それを軸にして勢い良く一回転しながら男たちの顔面を蹴った。感じた手ごたえからして、倒れたのは恐らく四人だろうとカイは判断した。
回転が止まると、すかさずカイは右手に力を込めて跳び上がり、近くにいた一人の男へ両の手に持っている武器を振り下ろした。狙った場所は右と左の鎖骨。感触と刃が肉に入った深さから見て、鎖骨は叩き折れていることだろう。そしてダガーナイフと小神刀を抜 き取り、後ろに跳んで着地し、立ち上がりざまに後ろにいた男へ右足で後ろ蹴りを放った。
一撃の蹴りで相手を倒すには人中、水月、金的の三つの急所を狙うのが良いとされるが、カイはそのセオリー通り、的確に水月に当てていた。これは幾つもの修羅場を経験してきた彼だからこそ出来る芸当だろう。
アイビーはまだカイの手の届いていない、奥にいる男たちに向かって走り出しながら、スカートの中より二本の電動鋸を出す。修理をされて間もないためか、新品のように刃が煌めいていた。
ヴィルバーはアイビーの電動鋸を修理しただけではなく、改造もしたようだ。今までの電動鋸の電源の入れ方は紐を引っ張るようにしていたが、持ち手の人差し指が掛かるところに銃のトリガーのような物が付けられており、それを引けば電源が入るようになっている。そのおかげで、武器を出してから電源を入れるまでの時間を大幅に短縮出来ている。
「ジャンクにして差し上げますわ……!」
ヴィルバーの影響か、妙に技師じみたの言葉を発しながら瞳を狂喜に染め、アイビーは腰を右から左に捻り、その動きと共にふたつの電動鋸を薙ぐように振るう。
狂喜に染まりつつもちゃんと恋人のお願いには従っているようで、電源は入れずに斬撃攻撃というより打撃攻撃という様子だった。これなら、打ち所を間違えなければ殺すことはないだろう。
それに当たった。というより巻き込まれた人数は、三人。いずれも潰される間際の蛙のような声を上げながら倒れていく。いくらアイビーが非力な少女といっても、幾多の修羅場で身に付いた身体の全体のバネを無駄なく使う戦い方を持ってすれば、大柄の男にも相当のダメージを与えられる。
近くに向かってくる敵がいなくなり、カイとアイビーは残りの男たちを見る。——四人。
二人の殺気に気圧された男たちは、脱兎の如く逃げようとする。無論、それらを逃がすようなことはしない二人だが、意外にも男たちの逃げ足は並のそれではなかった。加えて、武器を持ちながら走るのと、手ぶらで走るのでは後者のほうが速いに決まっている。
後ろも確認せずに走る男たちの前に、何かが立ちはだかる。一人は赤い髪と燕尾服の男、もう一人は神刀を腰に下げた短髪の男だった。
どけ。男たちは前の二人にそう言おうとしたのだろう。だが、赤い髪と燕尾服の男——ブランクと神刀を腰に下げた短髪の男——黒峰は口を開く時間も与えずに一瞬で戦闘体勢を取り、
「……眠れ」
「……成敗ッ!」
ブランクは四人のうち二人を顎を狙ったフックで倒し、黒峰は残りの二人を上段から振り下ろす一刀のもと、峰打ちで地面に叩き付けた。
それからブランクと黒峰は何事もなかったように、涼しい顔でアイリスたちのほうに歩いてくる。そしてアイリスを見て、半ば呆れたように笑う。
「全く。何処へ行ってもトラブルが絶えませんね、貴女は」
そう言って手袋の位置を整えるブランクに、アイリスは少し苛ついた。——好きでこうなってるわけじゃない。顔にでも出ていたのか、ブランクは苦笑しながら「すみません」と謝った。
——どうも、調子が狂う。
「……それで? 何しに来たんだよ」
アイリスは仏頂面のまま数歩進み、ブランクたちに近づいて聞いた。すると、答えたのは黒峰だった。
「ニーベル殿が心配していると申しておった。何やらフーリー殿に高周波斧を持たせずに出掛けさせたことを、とても後悔していたとか。話によると、ヴィルバー殿も来ている様子で御座る」
ヴィルバーが来ていたということに軽く意外に思うアイリスを押しのけるように、アイビーが黒峰の前に立ってその瞳を輝かせた。さっきまでの狂気は何処へやら。
「ヴィ、ヴィルバーさんが来ているって本当ですの?」
思わぬ展開に少々黒峰はたじろぐが、それでも会話は続いた。
「あ、ああ……。フーリー殿の高周波斧が修理できたからって。そうで御座るな?」
そうブランクに問うと、彼は頷いた。
それを聞いたアイビーは、立ちくらみしながら悦に入っている。
「や、アイビー。お前は仕事があるなら来るなよ」
「笑止! 仕事よりも大切な物、それが愛なのですわ……!」
「意味が判らないから!」
少し離れたところでアイリスとアイビーの言い争いを見物しているカイとリースの元へ、朱雀門店内からリースが怯ませた——そして何故か口から泡を吹いて失神している男たちを引きずり、姉御ことリーインが出てきた。
「リースちゃんだっけ? ……災難ねぇ。メインの用事が放置されているなんてね」
そう笑いかけながら、リーインは男たちを店先に捨てていく。
「で、アイリスに頼みたいことって何よ。アタシ、耳はいいから聞こえて来ちゃったのよ」
リースは心から安堵したように笑い、その口を開く。
「えと、ウチ、住む家を探して欲しいんですぅ……」
リーインがクスリと笑う。
「大変ね。……いいわ、私が手配してあげる。マリアあたりなら良さそうだしね。取り合えず、今日はアイリスのところに泊まっていきなさい。明日にでも連絡するから。」
言い終わると同時に、今度はカイを見る。
「カイ、いいわね? あの娘にそう伝えておいて。アイビーにも、もう仕事終わっていいよって言って」
「しかし……」
申し訳なさそうに言うカイの口を塞ぐように、リーインはカイの口元に人差し指を突き出す。
「いいの。今日は色々あって大変だけど、何でか悪い気分じゃないからよ。要するにただの気まぐれ。気にすることはないわ」
「そうか……」とカイは微笑んで了承した。続けてリーインもニカッと笑う。
「ところで」
それから、アイリスのほうを見て一言。
「何であの娘、服があんなんなのかしら。ずっと思ってたけど言わなかったわ」
カイが頷く。
「それは俺も思ってた」
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お知らせ。
更新が遅れて申し訳ありませんでした^^;
少しばかり、親族間でトラブルがあった上、期末テストの時期ですから、ほとんどPCが触れませんでした。
でも、もう大丈夫です。夏休みに入るので、そこでペースアップを図りたいと思います。どうか、見捨てないでやってください!
こたつとみかんでした。