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Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-4 ( No.87 )
日時: 2010/08/04 17:41
名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: 6oBlKSV1)
参照: 講習は辛いー! へるぷみー!

 要約してニーベルが説明し終えると、ニコは面倒くさそうに顔を上げた。
「……なるほどな。それで銀髪が心配という訳か。……馬鹿馬鹿しい」
 手に持っているティーカップの中身を上品にすすりながら続ける。
今、皆がいるのは借家の中の客間だ。そこには正方形のテーブルが設置されており、それを囲むように大人数が掛けられるソファがある。ニコ、レイジー、ブランクとニーベル、ディオーネ、ヴィルバーは対面して座っている。とは言っても、レイジーとブランクはニコの座っているソファの後ろに立っていて、ヴィルバーもニーベルの後ろに同様だった。
「だが、貴様の浮かない顔を見てるのも趣味じゃないしな」
 そう言うと、ニコはブランクの名前を呼んだ。ブランクは一度短く返事をし、そこにいることを伝えた。
「聞いての通りだ。あの銀髪を捜して来い」
「は」
 返事をして直ちに向かおうとするブランクを、一度ニコは制止した。
「ついでだ。中央地区西通りに黒髪の刀男がいたろう。そいつも連れて来い」
 黒峰のことだろうか。黒髪で刀を携えた男は他にもいるかもしれないが、ニコが気に掛けるほどだ。そこまでの人間は彼しかいないため、恐らくは間違いないだろう。
 ブランクが借家を後にし、その客間に耐え難い静寂が生まれた。しかし、それを気にせずに口を開こうとする勇気ある者が一人いた。それはヴィルバー。
実のところ、彼は勇気だとかそういうものではなく、単に空気が読めないだけなのだ。葬式レベルの静寂でも打ち破ることが出来る、それがヴィルバークオリティ。
「あの、そこにいる性格悪そうな子供は誰っスか?」
 ——子供。その一言でニコの目つきは変わった。
「貴様が言うなっ!」
「本日二回目っ!」
 ニコは右手にティーカップを持ちながら、左手でソーサーをヴィルバーの顔目掛けて勢い良く放った。フリスビーよろしく回転したソーサーはヴィルバーの顔を切断こそしなかったものの、先程ディオーネが金属ロッドをぶつけたところとほぼ同じ部分に当てた。陶器は無論、金属よりも硬くないため痛みもそれほどでもなかった。あくまで比較的であるが。
 跳ね返って空中に舞ったソーサーはレイジーがキャッチし、あった場所に再び置かれた。
 ニコがニーベルが座っているソファの背もたれに肘を置いて、痛そうに顔を抑えて悶えて立っているヴィルバーを蔑むように見た。
「僕は見た目年齢こそ子供にも見えなくもないが、実際に生まれてきてすごした年数は貴様らよりも多いんだ。……次に“子供”と言ったら……覚悟しておけ」
「う、ウス……。で、何者っスか?」
 ここはニコないしはニーベルが答えるべきタイミングだったろうが、意外にも答えたのはレイジーだ。彼女は従者なのだから、当然といえば当然かもしれない。
「ここにおります御仁は由緒正しいネバートデッド家二千三十八代目頭首、ニコ・ザンティ・ネバートデッド様で御座いまして、若はこのヴィ・シュヌール南地区の便利屋たちを治めてらっしゃいます。あと、ニーベルさんとは師弟関係にあたります」
 淡々と言っているように見えるが、説明しているときのレイジーは割りと笑顔で話していた。混じり気のない笑顔、それはニコに対する忠誠心が海よりも深いことを意味していた。
 ヴィルバーとディオーネが“師弟関係”という言葉について疑問を持った表情をしていたが、いちいち答えるのは大変なので一旦ここは無視して話を続けた。
「ええと、ニコくん……今日は、どうしたの……? ……通りがかった、って言って……たけど……」
 ニコは弟子の質問に、軽く微笑んで見せた。それは子供が笑うといった感じではなかったが、とても優雅で優しそうだった。愛弟子と他でこれほどまで対応の仕方が違うとなると、ある種これは格差である。アイリスとの対応がいい例だ。
「野暮なことを聞くな。今日はお前にとって大切な日だろう?」
 “大切な日”。その言葉によってニーベルの心で霧がかかって思い出せなくなっていたひとつの思い出が甦ってくる。
 ニコが一度ディオーネとヴィルバーを見て、続けた。
「丁度いい、話してやれ。後ろの二人も仲間はずれじゃ可哀想だ」
「そう、だね……。ええと、あの、どこから、話そうかな……」
 気弱そうな少女がかつての頃を思い出し、語りだした——。