ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-5 ( No.91 )
- 日時: 2010/08/11 19:25
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: QpE/G9Cv)
- 参照: 講習は辛いー! へるぷみー!
雪の降る寒い道を、少年を抱えた片腕しかないイーファとその“家族”が走る。あてもなく医者を探して貧民街を出て南地区の大通りの外れに来た。ここなら人も多く通るし、住宅も多いから医療施設なども見つけやすいだろうというイーファの判断だった。
しかしいくら人助けのためとはいえど、今まで悪行を重ねてきた彼らを見て良い感情を持つ人間などいるはずがない。
「見ろよ、小汚い鼠共だ」と石を投げ出す者や「隠れろ、盗られるぞ」と怯えて逃げ出す者が大半で、どちらにせよ近づく者はまずいなかった。——いや、この言い方は若干間違いがある。ただひとり、彼らを気にせずその通りを闊歩する少年がいた。
その少年は黒いニットキャップを深く被っていて、その下から覗く髪型は女性で言うセミロングといった青く長い髪の毛だった。かろうじて見えた黄金色の瞳はどこか優しそうな雰囲気が目立っている。見た目の年齢はおよそエリックと同じくらいで、灰色のタイトな革製のロングジャケットの肩のところにはうっすら雪が乗っていた。彼は何か大きな麻袋を抱えていて、何か大事な物でも入っているのかそれに視線を移しては上機嫌に笑っていた。
イーファが道の真ん中を歩く蒼い髪の少年に気が付くと、慌てて走る速度を減らした。何故なら大通りといっても外れなので、向かい歩く人が余裕にすれ違えるように出来ているほど幅は大きく造られていないことと、彼自身片腕がないことでバランスが上手に取れないため無理に進行方向を変えることは出来なかったからだ。
蒼い髪の少年と対峙したイーファは彼を睨みつけて、息切れ交じりの声で静かに言った。
「退けよ……」
聞いた蒼い髪の少年はきょとんとした表情で状況が呑み込めずいた。しかしイーファの必死さを感じ取ったようで、すっと道の端によって顎をしゃくって見せた。「行け」とでも言ってくれているのだろうか。
イーファは特に礼もせず急いで通ろうとすると、不意にその少年から言葉が聞こえた。
「オイオォイ、そっちの通りに医者なんていねェぞ」
“家族”全員が驚愕して振り向くと、蒼い髪の少年は皮肉っぽく笑った。彼が続ける。
「まァ……、お前ら物盗り鼠がそのガキを助けようとしている、って仮定して言ってみただけだけどな」
その言い方に真っ先に腹を立てたのはレヴィだ。彼女は誰よりも怒りっぽく、何より仲間を馬鹿にされたことを許せなかったからだ。
「何て言ったお前ェ……!」
そう言ってフクマから折りたたみのナイフを奪って構え、威嚇する。彼女なりの最終警告なのだろうが、蒼い髪の少年は臆せず更に挑発した。
「お、やンのか?」
「ふざけんなァ……!」
彼に対して右手にナイフを持って走り出すレヴィ。心臓部を狙ってそれを突き出すが、蒼い髪の少年は驚くほど速い動きでその手を左手で取り、それを軽く捻ってレヴィの体勢を外側に傾けさせたところで彼女の前足である右の足を自分の左足で払って転ばせた。勿論これでは大したダメージも衝撃もないので、すぐに立ち上がろうとするレヴィだったが、蒼い髪の少年は右手でコートの内側にある右腰に取り付けられたホルスターからある物を取り出してレヴィの鼻先に先端を向けた。それはポンプアクションの散弾銃。それの引き金にはすでに右腕の人差し指が掛けられていて、もうどう足掻いても死という運命から逃れられない状況となった。レヴィの頬に冷や汗が垂れる。
戦意が目の前の少女から消失したことを感じ取った蒼い髪の少年はポンプアクションの散弾銃を元のホルスターにしまい、ため息をつきながらレヴィを助け起こした。
「ったく、そのガキ助けてェンならこんなことに時間割いてんじゃねェよ」
そう言って彼は“家族”たちが向かおうとしている方向と反対の方を向いて歩き出した。数歩歩くと、一度立ち止まって振り向いた。
「オレァ今から知り合いの医者に向かうところだが……、付いて来るか来ないかはお前らの勝手だ。……好きにしな」
そうして再び歩き出した蒼い髪の少年の後ろを数秒間、“家族”全員は見つめていた。