ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

第一話 幼き頃の記憶 ( No.8 )
日時: 2010/04/02 20:23
名前: 紅沙祁 (ID: e65Hbqlh)

>暗刻の導き手様

読んでいただいてありがとうございます!
すごいなんて……いえ、まだ私なんか全然……。
ありがとうございます!すごく嬉しいです!
ぜひぜひまた来てください!頑張ります!

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「ただいま」

声とともに、玄関のドアが開かれる。
ドアを開いたのは、ある男だった。

「お父さん!」

リビングの机の上でノートに落書きをしていた少年が
男が来た途端、椅子から飛び降り、男に抱きついた。
この少年こそが幼い頃のシャエルだった。
そし て、この男がシャエルの父だ。
玄関の横にあるキッチンのかまどでは火が燃えており、その上の鍋の中のシチューがコトコトと音をたてている。
シチューはシャエルの母によって木べらでかき混ぜられた。

「シャエル、火を止めて」

母が微笑みながら優しく言う。
シャエルがパチンと指を鳴らすと、火は消え、かまどには真っ黒の木々だけが残った。
シャエルは、火を操れるカインなのだ。

「ねー、お父さん!僕があの火をつけたんだよ!」

シャエルはかまどを指差しながら父に言うが、シャエルがつけたのは一本のマッチほどの火だ。
それからはシャエルの母に風を送り込んでもらったのだ。

「そうかそうか!それはすごいな!」

父もその事は分かっているのだろうが、シャエルを笑いながら褒めた。
この家のそんな暖かな一時は、突然、外からの悲鳴によって壊された。

「!?」

父はドアを開くと、外を見回した。
そこは地獄だった。
色んなところから火が燃え上がり、人々は火から逃げ回っている。
逃げ遅れたのか、灰に化している人間や、崩れた家の下敷きにされ、血まみれでうなっている人間もいる。

「伏せろ!!」

父の命令に近い言葉でシャエルの母はかがむと、両手をさしのばしシャエルを呼んだ。
シャエルが走って自分の両手におさまると、母は
そのまま前かがみに伏せた。
真っ暗で周りが見えない中、何か重みを感じた。
しばらくして、シャエルの周りが少し照らされたかと思うと、すぐ横に火がついていた。

「うわあ!!」

シャエルは母の体を持ち上げ、外に出た。
家は、もう無い。瓦礫の山だけが残っている。
シャエルはおそるおそる母を見た。
母は、もう火に全身が侵食されていた。
母の真っ黒になった肩を触ると、手には灰がついた。

「あ……あ……」

シャエルは震えながら父の方へ言った。
しかし父もただの灰の塊だった。

「ねえ、目を開けてよ……」

もちろん目を開けるはずは無い。
ただの灰なのだから。
しかし、シャエルは父をゆすりながら呪文のようにその言葉を繰り返した。
その言葉を繰り返せば、生き返るとでも言うように。
誰か自分にとって大切な人が亡くなるのは、胸がえぐられているような感覚だ。
シャエルは怖さと『もっとそばにいてほしい』という願望でいっぱいだった。

「お父さん……お母さん……」

目から涙が止めどなくあふれてくる。
その時、横でガシャンと音が聞こえた。