ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

第二話 ハイズの紋章 ( No.9 )
日時: 2010/04/04 23:17
名前: 紅沙祁 (ID: e65Hbqlh)

横を見ると、重そうな鉄のブーツがを履いた足が見えた。見るからに男だ。

「誰……?」

誰かがいた、という事で少しだけ安心したシャエルは
男の顔を見ようと見上げた。
しかし、シャエルの視線は左胸で留まり、目は絶望と恐怖の色に染まっていった。
左胸には、ある紋章がついている。
Hという文字の後ろにこうもりの羽。
まぎれもなく、ハイズの紋章だ。
シャエルはしりもちをついたまま、後ずさりした。

「来ないで……来ないで……」

男はにやりと笑い、じりじりとシャエルに近寄っていく。
突然、男の肩に何者かの手が置かれた。

「ラツ、いくぞ……時間を守れ、5時半までだったはずだ」

ラツと呼ばれた男の後ろには黒髪の男がいた。

「こいつ殺してからでもいいだろお?
 もしこいつを殺さなかったせいで、俺達の情報が広まったらどうなるか分かんねえぞ」

ラツはシャエルを指指しながら言った。
しかし、黒髪の男は真面目な表情を崩さず鼻で笑う。

「バカなりに考えたようだな」

「何だとぉ!?」

「もし俺達の情報が広まって、狙われたとしてもだ。
 その時は狙ったやつらを殺せばいい。何百人でも何千人でも。
 他に俺達が尾行されてアジトがばれて攻め込まれてきても、入る事はできないからな」

シャエルは呆然としながら、二人のやりとりを見ていた。

「ちっ……俺が昇級すれば、お前から離れられんのに……」

ラツはそう言うと、シャエルの方を見た。

「命拾いしたな、小僧」

その言葉を残し、二人は消えた。
シャエルはそれからも両親をさすり続け、泣き続けた。
ハルサ城から、軍が来るまで——。