ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 刃  ( No.12 )
日時: 2010/04/10 08:38
名前: right ◆TVSoYACRC2 (ID: zuIQnuvt)

第二話前半〔ゲーム〕

赤い手紙。

重なった偶然。友哉の手にも今、この手紙が渡っている。熱くも無いのに、背中に滴る汗。冷や汗というものだろう。心臓が、走った後のように鼓動が早くなっていく。何で、こんな手紙ごときで緊張して、怖がっているんだ。別に、殺されるというわけでもないんだし。落ち着け、落ち着くんだ俺。そう自分に言い聞かせ、情緒が混乱するのを防ぐ。
架月はそれをを手に取ると、彼は、その手紙を、まるで珍しい動物を観察するかのように、まじまじと見つめた。表には、自分の名前が黒文字で『ハシダカヅキ』と、裏の開く場所に『日本政府』と書かれていた。意外に普通の手紙だ。だが、色が気持ち悪い。血に染まっているような、少々赤黒い色。中を開く。中に入っていたのは、一枚の二つに折りたたまれた黒い紙。何か書かれているようだ。架月は紙を開き、その場で読む。

——ハシダ カヅキ様———————————————————————————————————————————

おめでとうございます。貴方は日本政府主催のゲーム、[ヴォルフ]のゲームプレーヤーとして選ばれました。
明日、午後四時三十五分にプレイに必要なアイテムをそちらにお渡しします。アイテムは銀色のトランクの中に入っておりますので、一時間前に配布されるリストとご確認のうえ、参加の意思があるならば、アイテム配布時間から『一時間以内』にこちらまでご連絡ください。
ゲーム説明は集合地点で行います。開催地、集合地点、時間は下記にてご確認ください。
開催地・沖縄、集合地点・沖縄県鏡市鏡駅前、集合時間・午前十時十分。
※注意※
その一、参加意思が無ければ、殺します。
その二、集合時間に遅れた場合、こちらでそれなりの処置を行いますので、時間にはお気をつけください。
その三、このゲームに参加することになった等のことを参加者以外の方に口外しないでください。もし、口外をしてしまったのなら、あなたの家族、友人、職場の人間等のあなたに関わる人物らを全て殺します。もちろん、ゲームに関することを話した者、それを聞いた者も殺しますよ。
その四、リストまたはアイテム(トランク)が配布されていないという方は、集合地点ですぐ係りの者に御申し付けください。すぐに配布いたします。
その五、リストと違うアイテムが混入していた場合は、ヴォルフ集合地点まで持参してください。お取替えします。

参加意思、質問、ご意見がある方はこちらへお電話を。
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——日本政府代表・赤津野賢治—————————————————————————————————————

手紙の内容よりも、差出人の名前に驚愕した。この名前は、現日本国家の総理大臣の名前だ。一字一句間違っていない。赤津野賢治。理由は不明だが、何年か前に急に浮上してきた人気の国会議員。その人気さと、意思の強さ故、国会議員となって、一年目に総理大臣となった、カリスマ性のある男。だが、本人が自分宛に出したとは確定できない。いたずらの可能性だってある。だが、此処までの偶然はどう否定する? 雑誌の、今日のラッキーアイテムが赤い手紙。そこを読んだ途端、家に来た。別の雑誌を読んでいた、違う星座の友哉もだ。しかも、いたずらとは思えないほどの、背筋がゾクッとするような内容。何のゲームかわからないが、参加意思が無ければ殺すと、参加者以外にこの事を話したら、自分に関わった全ての者を殺すとも。何なんだ、これ。気持ちが悪い。
彼は玄その手紙を持ち、玄関から離れると寝室に行き、友哉と通話中の携帯を、左手に持った。それを耳に当てる。
「もしもし、友哉」
『……架月、もしかしてお前にも?』
「ああ。とりあえず、中見てみろ」
『うん』
携帯越しに、封筒が開かれるような音と、紙擦れの音がした。
三、四十秒ほど経てば、携帯から友哉の声が聞こえた。その声に覇気はない。先程よりも、ひどくなったといった方が良いだろう。
『これ……マジか……?』
「わからない……でも、明日になればわかると思う」
『他のヤツにも聞いてみる?』
「……止めておこう。それで、聞いたヤツが死ぬのも嫌だし……」
『架月、お前これ信じてんの!?』
「わからないって言ったろ。まだ半信半疑だ」
自分の今の心境は、その通りだった。
それにしても、なぜ自分たちが選ばれたんだ? 別に、法に触れる様なことはしていないし、恨まれるようなことも、一切していない。ましてや、総理大臣とも一度も会ったことが無い。
「友哉、今からこっちに来れるか?」
『ああ』
「じゃあ、来てくれ。一度、これについて話そう」
『わかった』
その返事の後、携帯を切るということを聞き、自分も通話中の携帯を切った。携帯をベットの上に放り投げる。再度、右手に持っていた手紙を読もうと、ベットの上に腰を掛け、架月はふとため息をついた。
何で俺、こんなことに巻き込まれるんだろうか。
そんなことを、心の中で吐き捨てた。意味は特に無いが。

これが、狂気と恐怖の始まりだったということは誰も知らずに。

        続く

※沖縄県鏡市鏡駅は実在しません。