ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 刃—立て直し版— ( No.6 )
日時: 2010/04/06 18:18
名前: right ◆TVSoYACRC2 (ID: zuIQnuvt)

第一話〔赤き手紙〕

—十一月二十五日・土曜日—

残暑が厳しかった秋もようやく過ぎ、寒くなり始めた十一月。ここは東京の上野という場所。現在は夕暮れ時。家へ帰る学生が一番多い頃だ。ちなみに上野は動物園でも有名な観光スポット。多くの外国人も訪れてくる。その上野の、とある市街地に、建設されたばかりの新しい家々に囲まれた、少し古く小さなアパートが建っていた。そのアパートは二階建てで、見た目は黄ばんだミルクの様な色をしており、一階には五つの部屋が、二階には四つの部屋が設置されていた。ほとんどの部屋はキッチン、リビング、寝室と三つの部屋とで構成されている。
そこに彼もとい本作の主人公、橋田架月が一人で住んでいた。髪は栗の様な濃い茶髪。何故かもの寂しそうな、漆黒の綺麗な瞳。整った顔。真っ白とは言えないが、そこそこ白い肌。成人男性並みの身長。上下紺色のジャージを着ている。アルバイトはもちろんやっている。働いているところは自給千百円の綺麗なフレンチレストラン。週休二日制で、月給(八時間労働で二十三日働いたとする)は約二十万。一人で楽々暮らせる程度だ。
その架月は今、アパートの二階にある、正面から見ると一番右の自分の部屋の寝室で、週刊雑誌をベットに寝転がりながら読んでいた。
その雑誌は、新人らしき歌手グループの特集や俳優、女優の電撃スクープ、大物作家のインタビューなどが載っている、何処にでもある普通の週刊雑誌。それをぱらぱらと捲って、占いの特集へと向かう。一番最後らへんにある星座占いというモノはあまり信じていないが、やはり男も女も気になるものだろう。
彼はそのページに辿り着けば、自分の星座を探す。
「……あった」
見つけて、それを黙読する。
雑誌にはこう書いてあった。
『今日の獅子座。健康運は星二つ。好きなことを頑張りすぎると、体調を崩す恐れがあります。適度に休憩を取ることが大切です。恋愛運は星三つ。気になる相手から、デートの誘いのメールが来るかも?! 金運は星二つ。今日は財布の紐が緩みがち。誘惑に負けないようにしましょう。仕事運は星四つ。今日は集中力がアップし、仕事がはかどる一日になるでしょう。そんな獅子座のラッキーカラーは黒、ラッキーアイテムは赤色の手紙』
……自分にとっては馬鹿馬鹿しい内容。当たりもしないくせに、ただ、他人の未来を勝手に決め付けているだけ。そこを理解すれば、こんな占いという類のものは、本当に馬鹿馬鹿しくなる。だが、気になる言葉があった。それは、普通としては不自然で、よくよく考えると気味が悪い。

『赤色の手紙』

たかが占いだ、あまり気にしないでおこうと、雑誌を、ベットのそばにあったガラス製のテーブルに置こうとした時、テーブルの携帯から、バイブ音と着信音が発せられ、寝室に大きく響いた。甲高くリズミカルな音と、低く篭るような震える音。鳴った途端、かなり驚いたが、すぐにいつもの冷静さを取り戻す。その携帯を手に取り、中を確かめる。
——親友の岸宮友哉からの電話だ。
通話ボタンを押して、彼からの電話に出る。
「もしもし……」
『あー……架月か?』
「ああ、どうした」
いつもよりトーンの低い、友哉の暗い声。それは何かがあった印でもある。
友哉とは小学校からの仲で、中学校、高校も一緒だ。言うなれば、幼馴染というもの。彼は昔から、お気楽者でやんちゃで学校に遅刻しがちで、成績はそこそこ良かったが、そのせいで担任に叱られてばかりだった。しかし、友哉はクラスの盛り上げ役で、いつも彼は人気者だったのだ。
小学校の頃から、俺は、あまり感情を表に出さなかった。出す意味もないと思っていたから。周りに来る人間はそれを怖がった、多分そうだろう。だから自分には全然近づかなかった。そんな俺とは正反対の性格の友哉はそれを気にせず、いつも自分と遊び、そうしている内に、友達になっていたのである。俺としては不思議な話だ。最初から、彼と友達になろうとは思っていなかったのに。
『何か、俺の家に赤い手紙が来ててさぁ……しかもそれが政府からみたいで』
訪ねれば、彼はそう答えた。
赤い手紙、赤……? そうだ、さっきの雑誌に赤色の手紙と書いてあった。何だ、この偶然。でも、友哉は確か乙女座で獅子座ではないはず。しかも、政府かららしい。じゃあ、なぜ? 
「赤い、手紙……お前、自分の星座占いみたか? どんな雑誌でもいいから、一回見てみろ」
『うん、今見てた。乙女座のラッキーアイテムは赤い手紙……って』
「どういう雑誌だ?」
『えーっと、スポーツ雑誌……何か、気持ち悪いなぁ……その雑誌、今日買ったのに、手紙がすぐ来るって』

同じ。

テーブルに置いた、あの雑誌も今日買ったのだ。偶然としては出来すぎている。しかし、自分には赤い手紙など来ていない。
「……俺の星座にも、別の雑誌だが、ラッキーアイテムが赤い手紙にな……」
外から、ドアのポストに何か入るような音がした。まさか、赤い手紙? いや、違う可能性だってある。だが、こういうことがあったのだ。人間、誰しも気になるだろう。俺は、友哉に「少し待ってろ」と携帯越しに言い、ドアに向かう。心の奥で入っていないようにと願う自分がいた。もしポストに入っている物が本当に政府からの手紙で、その色が赤かったら? 内容はわからなくても、偶然過ぎるこの偶然はおかしすぎる。誰かが、俺たちを見ている、とか?
ドアの前に立ち、ドアに設置してあるポストの蓋をどきどきしながら、ゆっくりと開けると、そこには。


血のような、赤い色の封筒が入っていた。


     続く