ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 連載再開第1話目!! 怖い話をしませんか? ( No.14 )
日時: 2010/06/12 21:22
名前: 桃井 ◆G5Umpuxr/Y (ID: tVNOFy45)

  【第十怪】  「ツードアの車」

この話が怪談になるのかどうかは皆様の判断にお任せします。・・・・・ただ、シャレにならない話です。

私が中学生の時ですから、もう、随分前の話です。

私の剣道の先輩はK大学におりました。赤いセリカを中古で手に入れ、部の仲間を二人誘ってドライブと洒落込みました。

大阪から山越えして日本海へ。そしてUターン・・・・・

近道をしようと、幹線道路から山道へ入ったところ、きっちり迷子になってしまったのです。

陽は暮れかかり、少々慌て気味で道を捜していたところ、若い女性に出会いました。

その女性の容姿は、白いスーツにパンプスという出で立ちで、それは人家もない山奥の道路にいるような姿ではありませんでした。

その女性は手を上げて、止まってくれという身振りをしていました。

それに応じて先輩達が車を止めたところ、「町まで乗せて下さい」と言ったそうなんです。

「こんな山の中でどうしたんですか?」と尋ねると、「ちょっと・・・・・」と口を濁します。

先輩は彼氏とドライブに来て、喧嘩でもしたのだろうと考えました。

町までの道も知っているというので、車に乗せました。美人だったし、道も知ってる。ラッキーだと思ったそうです。まぁ、若い男としてはこの反応が妥当かもしれません。

女性を後部座席に乗せた事で、車内は華やかになりました。一時的なものでしたが・・・・・

後部座席に座っていた先輩の友人は、話題も豊富で3人の中では一番女性にもてる人でした。

その女の人は無口でしたが、決して陰気なわけではありませんでした。

ジョークにはほほ笑みを浮かべ、話に頷きながら的確に道を指示します。

ところがです、10分も走らぬうちに先輩はこれまで体験したことのない恐怖に襲われたのです。

膝が震えてアクセルさえまともに踏めない状態であったといいます。

何に恐怖したのか?

何故に恐怖してしまったのか?

それは、・・・・・・・・件の女性です。

別に化ける訳ではありません。ミラーに映らない訳でもありません。

それでも先輩は、その女性が「人間ではない」と確信したそうです。

その女性がそこにいる。ただそれだけのことに、屈強な武道家であるにもかかわらず、先輩は恐怖したのです。

恐怖したのは先輩だけではありませんでした。二人の仲間も恐怖に俯き、身じろぎもしません。車内には道を指示する女性の声のみが響きました。

「そこを右」「そのまま真っすぐ」「そこを左」

山の日は暮れるのが早いものでした。暗闇の中、先輩はハンドルにしがみつき、恐怖に耐えながらただ、前を見詰めて運転しました。今、その女性の姿を見たら気が狂うと思っているそうです。

ハンドルを左に切った時、先輩は助手席の友人と目が合いました。
 お互いに恐怖に歪んだ顔を認めた瞬間、二人は悲鳴を上げました.
 先輩は急ブレーキを踏み、ドアを開け、真っ暗な山の中を助手席の友人と一緒に逃げました。
もう走れないというところで二人は止まり、荒い息をつきながら言いました。

「あれは・・・、いったい何だったんだよ・・・・・?」

その言葉を告げた時、気付いたのです。一人足りないことに・・・・・

ツードアの車の後部座席に座れば、降りるには前の座席を倒さねばなりません。

それ故に、後部座席の友人は逃げられなかったのです。

見捨てるわけにはいきませんでした。先輩は脅えながらも車に戻りました。

暗闇の中、ヘッドランプとルームランプの点いた車はUFOのようだったといいます。

車の中には友人が一人残っていました。

助手席のシートが倒れていたそうですから、件の女性は車を降りて、明かりもない山中に姿を消した。という事に、必然的になります。

先輩はおそるおそる車に近付きました。

そしたら・・・・・、車から奇妙な声がするのです。

「おい,大丈夫か」と声をかけた先輩は見ました。

残された友人は大股を広げて失禁し、ぐったりとシートにもたれていました。友人は泡を吹きながら体を小刻みに震わせて、「オオッ、オオッー」と獣のように唸っているのです。

この人は入院しました。

そして正気に戻っても、魂が抜けたようになってしまいました。

ドライブに行った事も覚えていませんでした。

私もお見舞いに行ったのですが、「君は誰・・・・・?」と言われた時は本気で泣きました。

この人は牛若丸と言われる程、機敏な剣道をする人でした。

そんな人が一晩で別人になったのです。

私は今でもツードアの車には乗りたくありません。絶対に・・・・・