ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 怖い話をしませんか? 参照100突破ですね… ( No.15 )
日時: 2010/06/12 21:23
名前: 桃井 ◆G5Umpuxr/Y (ID: tVNOFy45)

 【第十一怪】  「引き込む“者”」

M県の海水浴場に、海の守りの女神像があります。

これが建立されたのは、ある事件がきっかけです。

昭和30年7月28日。

ここで泳いでいた45人の女子中学1年生のうち、36名!が水死するという痛ましい事件がありました。

全国的に報道された事件ですから、興味のある方はデーターベースを検索して下さい。

この遭難事件の原因ですが、海が荒れていた訳ではないのです。

生き残った9名の内5名が共通の発言をしています。

「かたまって泳いでいた友達が次々と波間に消えていきました。あっけにとられていると、水面をひたひたとゆすりながら、黒い塊がこちらへ向かって来ます。それは何十人もの女の人で防空頭巾をかぶり、もんぺをはいていました。逃げようとすると、物凄い力で足を引っ張り水の中へ引き込みます。女の人は皆、白く無表情な顔をしていました」

助かった女生徒も肺炎などを併発し、入院しています。

また、浜辺でこの有り様を目撃した人にも、亡霊を見た人が多数存在しています。

・・何をどう言えばいいのでしょうか?ただ、凄惨でやりきれない思いがします。

さて、実は私の弟がこの浜辺で恐ろしい体験をしているのです。

ワゴン車に男4人で弟はこの海岸に海水浴に行きました。

この海岸を最初から目標にしていたのではなく、無目的な旅行をしていた時に、たまたま海水浴場が目に付きました。

まだ夜だったので、車で仮眠を取り、明日泳ごうということになりました。

弟はこの時、海上に多数の人魂を見ていましたが、友人達は見えぬようなので、黙っていたそうです。

夜明け前に尿意を催し外に出ていた友人が皆を起しました。

海に「妙な物」が在ると言うのです。

外に出てみると、夜明け前の空は淡い紫色で、海面は鈍い銀色をしています。その海面沖から、かなり離れた所になにやらキラキラ光るものがありました。

「・・・・・ビニール袋かな・・・?」

誰かが言いました。確かにビニール袋が光を反射しているように見えなくもなかったそうです。

だが、まだ陽は昇っていません。

「手・・・、手だよ在れ・・・・・!」

真っ先に弟が気づきました。海面から手首から上を出して誰かが手を振っているのです。

「溺れてんじゃねえのか?」「見に行くか?」というのを、弟は押しとどめました。

「馬鹿!あんな遠くにあるのに、何ではっきり手首だって言えるんだよ!しかも、何で光ってんだよ!?」

それでようやく、仲間もそれが只ならぬ者であることに気づいたのです。

全員車に戻り、酒の力で無理に眠りました。

翌日、騒がしさに目を覚ますと、海水浴場は人で溢れています。

昨夜の事もあり、気味が悪いが、ここまで来て泳がないのもしゃくでした。

深場には行かず、全員離れぬようにしようということで海に入りました。

股下位の深さのところでビーチボールで遊ぶうちに、昨夜の事など忘れてしまったそうです。

そのうち、仲間の一人が突然助けてくれと叫び、沈んでいきました。

昨夜の出来事で悪ふざけしているのだと、最初みんな思ったそうです。

皆泳ぎは達者だし、そんな水位で溺れるはずもありません。

「馬鹿やってんじゃねぇ!」と言いましたが、その男は本当に溺れているように見えます。

どれどれと見に行くと、その男はすでに頭が水の中まで沈み込み、手だけを上に出してもがいていました。

弟達は顔色を変え、その友人を引き上げようとしましたたが、逆に凄い力で大の男4人が引き込まれそうになりました。

弟が海の中を見たところ、砂が巻き上がり友人を包み込んでいます。

弟はその砂の中に確かに無数の手を見たと言ってます。

自分達だけでは助けられないと思い、弟達は助けを呼んびました。

側にいた刺青の集団が助けに来てくれたそうです。結局、大人8人がかりでようやく助け出しましたが、溺れた友人の体は腰まで海底の砂の中に埋まっていたそうです。

「何や!これは何や!?」

刺青の怖い人達は叫んだそうですが、弟達に答えられるはずもありません。

一体、どうすれば大人の体を海底の砂の中に引きずり込む事が出来るのでしょうか・・・・・?

少なくとも私には判りませんでした。

ちなみにこの海岸、第2次大戦中の空襲の死亡者二百名余りを埋めた場所だそうです。

これでその意味が私にも判りました・・・・・