ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 怖い話をしませんか? 参照100突破ですね… ( No.18 )
- 日時: 2010/06/12 21:25
- 名前: 桃井 ◆G5Umpuxr/Y (ID: tVNOFy45)
【第十二怪】 「山辺の猫」
高校生の頃、暇さえあれば山辺の道を歩いていた時期があります。
三輪山の霊気は独特で非常に強いし、あの辺りは歩いていても心が和むんです。
道のあちこちにある石仏も優しげですしね。
汗をかき、一服していたら、「今日は暑いの」と話し掛けられ「そうですね」と何気なく答えたら、石仏が微笑んでたなんてことはよくあります。
さて、この辺り有名な古刹が点在しています。
そのひとつにお参りをしに行きました。
山の斜面に建立されたそのお寺は、山そのものが聖域です。
小さな洞窟も在り、しめ縄で入り口を塞ぎ、「立ち入り禁止」とされています。
こういうのは修行場で、一般人の立入禁止にしている場合と修行場だったけど、やばくなったんで立入禁止にしている場合もあります。
ここの場合は後者でした。
勿論、そんなところへ入るほど愚かじゃありません。
境内を登っていくと、極太のしめ縄でそれ以上上へは上がらぬようにしてます。
「立入禁止」の標示もやたら大きくあちこちにありました。
(コイツは、やばいな・・・・・)
そう思ったんですが、その結界の前に猫がいました。
僕を見てます。
小猫みたいに小さいんですが、明らかに成獣です。白く美しい華奢な美猫でした。
(・・・・・使い魔・・・?)
こういう場所には時々出るんですよ。・・・・・「使い魔」が・・・
猫は「ついておいで」と言うように顎をしゃくると、結界の中へ入っていきます。
僕は、何も考えずに猫について行きました。
松林の中を暫く行くと唐突に拓けた場所に出ました。
そこには、崩れた卒塔婆がありました。
猫はそこで立ち止まり、僕を見つめます。
彼女(猫)が、何故僕をここ連れてきたのか判りました。
卒塔婆を直し、白い素焼きの徳利と杯があったので側の小川で水を汲んでお供えしました。
ひととおり終わったところで、猫が擦り寄ってきます。
頭を撫でてやって見ると、なにか咥えています。
錆びた銀の簪でした。
赤い珊瑚で飾っています。黒ずんで汚れて見る影もありませんでしたが・・・・・
猫はこの簪を渡したいようです。
受け取ると頭を下げました。
ひとり戻ると、結界の所に中年のお坊さんが私を待ってました。
にこやかに微笑んでいます。私に向かって手を出しました。
僕は無意識に簪を手渡しました。
「ご苦労様でした」
お坊さんはそう言うときびすを返して戻っていきました。
その時はなんの違和感も無かったのですが、今考えると大分奇妙な話です。
さて、後日談。
数年後、恋人だった今の妻と嵯峨野へ旅行へ行きました。
天竜寺の渡り廊下でポーズを取る妻をカメラに収めようとしたとき、庭に人影を見ました。
真紅の毛せんを敷き、ちんまりと座ったお姫様です。
15、6歳の可愛い娘でした。
直感で、あの卒塔婆の主だと確信しました。
お姫様は僕にお辞儀をすると消えました。
・・・・・・奇妙なお話です。