ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 怖い話をしませんか? 参照190突破ですね… ( No.31 )
日時: 2010/06/22 09:34
名前: 桃井 ◆G5Umpuxr/Y (ID: YqVzKrVw)

  【第十九怪】  「野次馬と首」

友人がバイクで事故を起こしてしまいました。

兎に角、バイクが好きな男で暇さえあればバイクを乗り回している男です。

・・・かと言って、飛ばし屋ではありません。

市内走行をする時などは、極めて慎重な運転をする男で、テクニックも持っています。

事故の現場は彼の自宅近くの交差点でした。

事故が多発する交差点で歩道橋が作られ、信号も取り付けられたのですが、それでも事故の減らないイヤな交差点です。

深夜、彼はその交差点に直進で入りました。

右折待ちの車がいたのは、確認していました。

彼は速度を落とし、パッシングまでして、その乗用車が動かぬ事を見定めて交差点に進入しました。

・・・すると、その乗用車はいきなり急発進したのです!!

「殺す気か、てめぇッ!!!」

彼は思わず、そう叫んだそうです。

避けられるタイミングではありません。

彼を跳ね飛ばすために、発進したとしか思えませんでした。

咄嗟にバイクを蹴り飛ばし受け身を取りました。

近所の住民が出て来ます。

路上に横たわる彼を見て、

「頭を打っているから、動かすな!!」

などと怒号が飛ぶのが聞こえます。

「大丈夫か、あんた?」

との問いかけに、頷く事が出来ました。

誰かが、ヘルメットを脱がせてくれます。

路上に横になり救急車を待つ間、彼は自分を跳ねた車への怒りが沸き上がるのを感じていました。

ふと上を見上げると歩道橋に鈴なりに首が並んでいます。

その首が、彼を見下ろしています。

深夜の住宅街で、こんなに野次馬が集まるのかと彼は思いました。

次の瞬間、彼の胸の内の熱い怒りは、氷の塊のような恐怖に変わりました。

歩道橋の欄干に並ぶ、老若男女交えた無数の顔。

まともな顔はひとつとして無かったのです。

(皆、ここで死んだ奴等だ。こいつら、俺を待っているのか・・・)

そう彼は直感しました。

彼を跳ねた運転手は、バイクが全く見えなかったと証言しています。

嘘ではないだろうと彼は言います。

二度とあの交差点は通らないと彼は言っていました。