ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 怖い話をしませんか? 参照200突破&二十怪目突破ですね… ( No.34 )
日時: 2010/06/23 17:21
名前: 桃井 ◆G5Umpuxr/Y (ID: q0osNPQH)

  【第二十二怪】  「ネックレス」

もう、十年以上前のことです。

彼女は梅田のフリーマーケットで、そのネックレスを手に入れました。

売っていたのは、70代と思われる痩せた老人でした。

その老人は店を出しているのに、客に声をかけようともせず、俯いて商品をじっと見つめています。

並べられている品は乃木将軍の写真、仏像、帝国陸軍のヘルメットなどです。

若者が集うそのフリーマーケットで、老人は異彩を放っていました。

けれど、誰もその老人に注意を払おうとしません。

その老人には、存在感が希薄でした。

老人が並べている品の中に、翡翠のネックレスがありました。

異国の民芸品のような、作りです。

彼女は、そのネックレスに興味を持ちました。

(尋常なものじゃないわね)

・・・そう思ったそうです。

彼女には、老人が並べている品の全てが、霊的な因縁のあるものだと判っていました。

その中にあって、なおそのネックレスは異様だったのです。

彼女がしゃがんで、ネックレスを手にすると、老人が顔を上げました。

目が鷹のようで、なぜか天狗を連想したといいます。

「興味があるか?」

老人は、つっけどんな口調で尋ねます。

彼女が呆気に取られていると、

「やる」
と言うなり手早く店をしまい、立ち去ったそうです。

彼女は、非常に優れた本物の霊能者でした。

このように見知らぬ人より、いきなり物を押し付けられるのは初めての事ではありません。

ただ、この時は、あの老人は自分にこのネックレスを渡すために、ここにいたように思われたそうです。

異変はすぐ現れました。

この後、彼女は梅田の地下街でウィンドショッピングをしていました。

妙な気配に顔を上げて見ると、十メートル程前を見知った人影が歩いています。

それは、彼女自身でした。
その日、彼女はジーンズにインド木綿のシャツというラフないでたちでしたが、オリジナリティーにこだわる彼女はデザインなどを選びに選び、なおかつ、いったん脱色して染め直ししていました。

手前を歩く女性は姿形は勿論、服装まで同じでした。

彼女の視線に気付いたように、手前の女性は振り返りました。

その顔は、まさしく彼女のものでした。

振り向いた女は、彼女を見てにやりと笑うとゆっくりと歩き出します。

彼女は、後を付けました。

その女はトイレへ入りました。

間髪入れず彼女もトイレに入ったのですが、その女は消えていました。

このとき、彼女は自分が容易ならざる者に魅入られたことに気付いたのです。

彼女(T嬢とします)は、これまでにも特殊な霊的体験をしてきました。

だが、そんなT嬢にとっても、この体験は異質でした。

普通なら、ネックレスを手放す事を考えるのでしょう
が、T嬢はこれから起こるであろう異変に立ち向かおうとしました。

すでにして、このネックレスに魅入られていたのかもしれません。

それなりの準備を整え、T嬢は帰宅しました。

その夜は、彼女が考えていたような異変は起こりませんでした。

翌朝、肩透かしと安堵が入り混じった気分で、彼女は鏡台に向かいました。

口紅を塗ろうとして、違和感を覚えました。

(誰か使った・・・・・)

彼女はそう確信したそうです。

口紅だけでなく、ファンデーションも香水も誰かが使
った感じがします。

彼女は、化粧を止めました。

それ以降、職場で化粧することにして、口紅には表面に爪で十字を刻みました。

魔除けの意味も、込めたものです。

職場から帰宅した彼女は、真っ先に口紅を調べました。

刻んだ十字は、消えていました。

誰かが又、口紅を使ったのです・・・・・!!

T嬢は、慄然としました。

T嬢から私に電話があったのは、それから2週間後です。

「ちょっと会えないかな・・・?」

・・・という彼女の申し出を、事情を知らない私は快くOKしました。

待ち合わせの喫茶店に彼女は、そのネックレスをして座っていました。

変わったネックレスで、目を惹きました。

インカかアステカから出土したような品で、石の一つ一つに細かな見たことのない文字が刻まれています。

エキセントリックなT嬢に似合ってはいましたが、私がこれまで感じたことのない気を放っていました。

翡翠はまるで、人の脂を吸ったようなぬめりのある輝きをしていました。

私はそれに触れると、熱病に罹るという理由のない恐怖を感じました。

「なに、そのネックレス?」

そう、尋ねて私は軽い目眩を感じました。

脳裏に奇妙な光景が浮かびました。