ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 黒 Monochro 白 ( No.1 )
日時: 2010/04/03 17:24
名前: 獅堂 暮破 (ID: QYDGIf3B)

#01 「死」

人間には裏がある。
どんなに優しい奴でも自分の身に危険が生じれば、簡単に裏切る。
どんなに自分を大切にしてくれていた奴だって同じだ。
俺は今、それを十分過ぎるほど実感している。

今から数十分前の事だった。
午前十時二十分、数学の授業が終わり、休み時間を友人達と騒がしく過ごしていた。
それはいつもと変わらない毎日の日課。
馬鹿な事で大爆笑したり、腕相撲なんかやったりして。
普通で日常でそして大切な時間だった。
幸せは長く続かない。山があれば谷があって川もある。
そろそろ授業も始まる、生徒達は徐々に席に着きだした。
その時だった。
ふと感じた小さな揺れ。
それは周りの奴らも感じてたみたいで教室がざわめき出す。
小さな揺れはだんだんと強さを増し、ついには立ち上がれないほどの揺れとなった。
悲鳴が飛び交う教室の中、教師の声が響く。
「早く!! 早く廊下へ!!」
壁に手を突きながら避難を始める生徒達。
俺も割れたガラスで怪我をした友人に肩を貸しながら進んでいた。

「空廼!!」
名前を呼ばれ、俺は脚の動きを止めた。
上に視線を向ければ崩れだす天井が目に入った。
「パスッ!!」
俺は友人を教師の元へ飛ばす。
それと同時に身体に多くの痛みが走った。
「ぐぁ……っ」
崩れてきた天井の瓦礫によって足や腕、銅も全く動かない。
鉄の濃い匂いが鼻を刺した。
クラスメートの悲鳴や俺を呼ぶ声が聞こえる。
「空廼!! 待ってろ。必ず助けにくるからな!!」
そう俺の耳元で言う担任。
担任は友人を支えながらその場から生徒達を連れて去っていく。
この時俺は、きっと、きっと助けに来てくれる。
そう信じていた。

 *

「でも人間なんて、簡単に裏切れる」
意識の朦朧とし始めた俺の口からそんな言葉が漏れる。
助けに来ると言っていた担任も。
泣きそうな顔で俺の名を呼んでいた友人も。
誰も、来ない。
まぁそりゃそうだよな。
普通こんな危険な場所に後戻り、なんてしねぇもんな。
「……っ。まだ、死にたくねぇよ」
それが本心だった。
まだ、生きていたい。
まだ、死にたくない。
そう心が叫んでる。
でも流れる血は確かなもので、意識がなくなるのも時間の問題だろう。

『助けて差し上げましょうか?』

声の聞こえたほうに首を曲げて目を向けた。
「お、前……は?」
その先に立っていたのは黒いコートに身を包んだ、一人の若い男だった。