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Re: 黒 Monochro 白 【#01up】 ( No.4 )
日時: 2010/04/04 20:32
名前: 獅堂 暮破 (ID: QYDGIf3B)

#02 「序曲」

目を向けた先にいたのは銀色の髪を後ろで一つの結い上げ、蒼の瞳で俺を見つめる男。
誰だと問いかければ、ソイツは小さく笑みを浮かべて答えた。
「私は裏心取締班、黒朱(コクシュ)と申します」
裏心、取締班?
聞いたことのない名前だった。
黒朱と名乗る男は瀕死状態の俺に近づきしゃがみこんだ。
「一つ、質問いたします。貴方は生きたいですか? それともこのまま死を待ちたいですか?」
その言葉に俺は黒朱と目を合わせた。
「私なら貴方をこの世界で生かすことが出来ます」
黒朱はにこやかな笑みを浮かべ、俺の答えを待っている。
「俺は……」
そこで一度言葉を飲み込んだ。
コイツ、どう見ても怪しい奴だ。
それは誰が見ても分かる事だった。
黒いコートに身を包んだ、何だか分からない班に所属する見ず知らずの男。
普通なら信じないし、怪しいと思って俺は逃げる。
でも、今はそんな状況じゃない。

「俺は、生き……たいっ」
今は“生きたい”それが俺の一番の願い。
何だかんだ考えている場合じゃあない。
生きていたい、まだこの世界で立っていたい。
俺の答えに黒朱は「分かりました」と一言返し立ち上がった。
もう俺の意識はぎりぎりの綱渡り状態だ。
目の前は霞むし、耳もよく聞こえない。
「貴方の力、私が解放して差し上げましょう」
黒朱の言葉と共に瓦礫だらけの教室内に突風が巻き起こる。

「契約」

黒朱の手が俺の額に触れ、触れられた部分が熱くなる。
そしてガラスの割れるような音が鳴り響いた。
「これで貴方の本来の力が解放された。さあ、目覚めなさい。裏を取締る者“裏人”」

目の前の景色がくっきりと見える。
耳も聞こえるし、身体も動く。
「な、んだ?」
不思議な状況だった。
さっきまで死に近かった俺の身体は回復し、立ち上がれるほどになっていた。
俺が何をしたのかと訊こうとすれば、唇に人差し指で触れ「後で説明しますよ」と宥められてしまった。

「そう言えば、貴方の名前聞いていませんでしたね」
そう言って俺に笑顔を向ける黒朱。
「俺は……神藤、空廼(シンドウ ソラノ)」
俺がそう名乗れば奴は嬉しそうに笑った。

これが黒朱と俺の始めての出会い。
疑問だらけの出会い。

そして歪んだ旋律の上で序曲が流れ出す。
この出会いが、俺の全てを変えてしまう第一歩だったのかもしれない——