ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 黒 Monochro 白 【#02up】 ( No.7 )
日時: 2010/04/10 09:21
名前: 獅堂 暮破 (ID: QYDGIf3B)

#03 「裏心」

余震によって天井から砂埃が落ちる。
グラグラと揺れる校内で俺は見てはいけないものを見てしまったのかもしれない。
「……あれ、何だ?」
身体の体温が一気に下がり、青ざめていく俺の顔色。
「あれが“私達”裏心取締班の仕事対象ですよ」
黒朱は廊下の奥を指差しながら優雅にそう言う。
俺と奴が見つめる先にいるのは全身真っ黒でまるで人の影のような形をしたもの。
影だからちゃんとした顔は見えないが、服の形から見てこの学校の生徒であることは分かった。
「裏心、それは人の醜い裏の心の事。そしてアイツらは裏心の化身と言ってもよいでしょう」

裏の醜い心。
人間の本性。

それがアイツら、か。
妙に納得できてしまうのは自分も同じような心を持っているからか。
「流れ的に、俺がアイツらを倒す……みたいな感じ?」
俺は軽く冗談も混ぜて訊く。
その冗談は嫌な方向に向かって真実となる。
「はい」
すんなり答えたね、お前。
なんか殺意湧いてきた。こう、モワモワとさ。
「あのさ、そう言うことは普通契約とかの事前に言うよね!? 後からとか卑怯じゃね!?」
そう俺が言ってやると奴は、
「そりゃ、あんなのと戦えなんて言って素直に契約してくれる人なんていませんし」
なんて言いやがった。
「でも俺、普通の高校生だし、漫画の主人公みたいな戦闘力持ってねぇぞ?」

「何のために契約したと思ってるんですか?」

そう言うと黒朱は俺の首元に触れた。
さっきの契約の時みたいに首元が熱くなる。
そして火傷のような痛みが首元に走った。
「っ……」
「力を解放したい時はその紋に触れなさい。戦い方は貴方の身体が知っている。思うままに動けばいい」
黒朱はそのまま増えつつある影、いや“裏心”達のほうへ飛びたった。
「って、説明ほぼなしかよ!!」
遅れてツッコミを入れた俺。
もう黒朱の姿は米粒ほどに小さく見える。
その時、後ろに気配を感じて素早く振り返る。
そこには鋭利な刃物のような腕を持った生徒の裏心がいた。
その腕は俺の首元を狙って振りかざされる。
「うわっ」
避けれない。
そう思ったのに俺の身体は奴の攻撃を余裕でかわしていた。
「な、に?」
運動神経は良いほうだろう。
だが、こんな身体能力俺にはないはずだ。
これが、黒朱の言っていた“力の解放”なのだろうか。
分からないが今はコイツを倒すのが先な気がする。
「っ、もうどうにでもなれってんだー!!」
俺はそんな事を叫びながら裏心に攻撃を仕掛ける。
ん?
俺、何で戦えばいいんだ?
考えなしに突っ込んだのは間違い、大間違いだった。
そう思って心の中でやばいと叫ぶ。

「ぐあっ」

呻き声に俺は目の前を見つめる。
俺が手を振りかざした場所がすっぱりと斬れていた。
刀で斬ったかのように。
そして斬られた裏心は黒朱の元へと漂い集まっていく。
「まぁ、なんとかなって良かった、のかな?」
なんて呟いてみる。
そして自分の手に目を向け俺は固まった。
「武器? え、どこから出てきたのこれ」
俺の手に握られているのは黒塗りの刀。
こんなものなんで自分が持っているんだ?
さっき裏心を斬ったのはこれだった訳か。
武器を持ってるか持ってないかなんて考えている場合じゃなかったから気付かなかった。

「そっちも終わりましたか?」
そう言って黒朱は小瓶の蓋を閉めながら歩いてくる。
小瓶の中に蠢く黒い靄。
あれがさっき倒した裏心、なんだろうか。
「そうですよ。この裏心を後で私が浄化して元の持ち主へ返すんです」
心読まれちゃった。
プライバシー保護一つも俺には許されないんですか?
「何はともあれ、これからよろしくお願いしますね。空廼」
そう言われて俺は照れくさそうに「おぅ」と一言返した。

分からない事だらけ。
でも後でゆっくり聞いていけばいいか、なんて思ってしまう自分。
案外、奴に出会えてよかったのかもしれない。