ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.110 )
- 日時: 2010/07/19 20:02
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【43】
ロッキングチェアを揺らす揺らす揺らす。
提灯の中に入ってる火の精霊が暖かく光る。
魔女のくすくす笑いと、魔法使いの夜の誘い話が、BGMの代わりにひっそりと聞こえる。
この世界の夜は昼より長いが、村ではもっと長くなるように交代でまじないをかけている。
噴水は夜は止まるが、ときたま寝ぼけているのか水をあらぬ方向へ噴射していた。
「まったく、いつもこんな感じでさぁ!昼の元気はどこにいったんだつーの!」
ヤドリが呆れ顔で言った。
いつもなら、誘いを受けて断りきれなくなってしまう前に静まり返った広場を出るのだが、久々の風景に見とれ、ずっといてしまっている。
まぁ、別に私なんかに声をかける人はいないのだけれど……
もし、そんな事があっても、ヤドリの性格が守ってくれるだろう。
「いい村ですね」
ふと、横から声がした。ヤドリの声ではない声だった。
もう少し大人な澄んだ声。
私がふと、横を見ると、分厚い本を持ち、緑の短い髪にカチューシャをし、片目眼鏡をかけた女がいた。
「誰?あんた?見かけない顔だけど」
ヤドリが牙をむく。
だが、私は特に警戒しなかった。殺意がなかったことに気づいたからだ。ただ、闇魔導の気配はした。
「失礼しました。アタシは白縫と申します。かわいいお人形さんですね?貴女がこの子をお創りに?」
白縫さんは片目眼鏡のはずし、ポケットに入れながら尋ねる。
私はヤドリを誉めてもらえて嬉しかった。
「うん。私は窓付一二三。特別な相棒なんだ」
「ヤドリっていうのさ!ちゃんと覚えておくんだよ?」
ヤドリも誉められて警戒レベルを下げたみたいだ。
顔が少し赤くなっている。
「一二三さんにヤドリさんですね。突然ですが、最近この世界で素晴らしい程の魔力が使われた形跡があるのですが、何か知りませんか?」
私はそれを聞き、思い当たることが1つあった。
バンシーの涙の魔力。私の願いを叶えた時に発生したものだ。
最近だし、話が合っている。
だが、いってしまっていいのだろうか?
荷物を持ってくれた男もそうだったが、詩句を恨んでるような言い方だった。
もしかしたら、この人も詩句の痕跡を辿っているのかもしれない。復習のためとかで…。
詩句…良い人そうだったんだけど、本当は悪い人なのかな?
「……………」
結局スルーすることにした。ヤドリも空気を呼んでくれたようだ。
「知りませんか…。では、最近見知らぬ女を見たことは?茶髪の髪の毛で三つ編みをしてて…でも三つ編みだけ銀髪で…目は右目が義眼。手に手錠がついているのですが…」
…何でこの人は私の知っている事ばかり聞くのだろう?
茶髪で三つ編みだけ銀髪。義眼と手錠といえば、村の魔導を進む者の憧れ、大魔法使いの歌静さんしかいないじゃないか。
でも、私は最近はこの世界にいなかったわけで…歌静さんは知ってるけど。
「……………」
もう1回スルー。
「歌静?」
ヤドリが答えた。白縫さんは驚いた顔をした。
私がヤドリを軽く睨むと、ヤドリはしまったと口に手を当てた。
「先生を…歌静先生を知ってるんですか!?ではここに来たのですね??」
「違う、来てない。歌静さんが来たらもっと村は賑わってる。歌静さんの事を知らない魔法使いは、この世界にいないはず…」
私は仕方なくヤドリをフォローした。白縫さんはうなずく。
「なるほど。流石先生…。では今回の壮大な魔力はいったい…?」
…うっかり失敗してしまったせいで全部話さなくてはいけないようだ。
ヤドリを抱き上げ、手を差し出す。
「ヤドリの記憶」
そういうと、白縫さんは理解してくれたようですぐ手を握ってくれた。
ヤドリは私とは正反対の性格の人形で、最初の頃は気が合わなくて喧嘩ばかりしていた。
だけど、正反対という事は私にないモノを補ってくれるということ。
ヤドリは失敗のジャンクなんかじゃない。逆に成功しすぎてしまった人形だ。