ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.117 )
- 日時: 2010/07/19 20:03
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【44】
少しすると白縫さんは手を放した。
「バンシーの血の魔力でしたね…それもあれほど強いモノは私の知り合い並…もう1つよろしいでしょうか?」
まだ、あるんだ…。
「そんな呆れた顔しないでくださいよ?先生はアタシを狭い箱から取り出してくれて、世の中を見る目線を変えさせてくれた恩人なんです。絶対に合流し、先生の目となり、手足とならなければなりません」
真剣な眼差しだった。だが、それも一瞬でカッと顔が赤くなる。
「すいません…お恥ずかしい…変な話をしてしまいました。で、あの、ナテクナというバンシーを見たことは?」
私は首を横に振った。まず、バンシーに出会ったことはない。バンシーの血を持ってるものなら知っているが。
「そうですか。ありがとうございました。最後に忠告しておきましょう。」
白縫さんは片眼鏡をかけ直し、本を開いて、何かを書き留めながらいう。
私もヤドリも黙っていた。
「この世界は過去に戻っただけ。今も刻々と未来へ時間は進んでいます。あなたは過去に帰りたいと願ったが、過去のままにしていたいとは願いませんでしたね。バンシーの魔力は上手く使えば何でも願いが叶う万能な力。ただし、使うとき、絶対に穴をつくってはならない。なぜならその魔力は綺麗にその穴をすり抜け、願いを叶わなくしてしまうことがあるから」
違うページを開き、淡々棒読みでそういった。
私は思わず俯いてしまった。
故郷は過去に戻ったが、いつまでも停まってるわけじゃない…。
いつかはまた魔法が使えなくなり、ヤドリも動かなくなってしまう…。
冷たい滴が頬を伝う。
「…一二三。」
心配そうに名前を口にしながらヤドリが頭を撫でてくれる。
ヤドリの身体は小刻みに震えていた。きっとヤドリも動けもしない話せもしないあの一時に戻るのが怖いのだろう。
その震えをとめてあげたくて、私はヤドリをギュッと抱きしめた。
「ごめんね。ごめんねヤドリ…私が勉強不足だったから…出来損ないの魔女だったから…」
バンシーについても、呪いのことやまじないについても、もっとしっかり理解していれば、私の故郷が中途半端な幸せで終わることはなかったのに。助けてくれた彼にかかった呪いもとってあげることができたかもしれないのに。
泣いても泣いても涙は止まらない
抱きしめても抱きしめても震えはとまらない
暖かい小さな手が私の涙をすくいとる。
「一二三は立派な魔女さ!私をつくってくれたんだもの。だから自分をせめないで」
ヤドリは笑って言う。
怖いといわないで、感情を隠して涙を舐める。
昔やってくれたように口に運ぶ。
私がうつむくのをやめると、まだそこには白縫さんがいた。
「…こういうのはどうでしょう?アタシから先生に、歌静さんに時を止めるよう、お願いしましょう。」
「「?」」
状況が読めない私とヤドリ
「先生の魔力は闇魔導のモノですが、威力は絶大です。そしてアタシは光。威力はなくても質は先生に負けません。2人でやれば、ここの時を永久に止めることができるでしょう」
「…助けてくれるの?」
私が聞くと、白縫さんはクスッと笑った。
「いえ、私はなにか代償をもらわないと動けないですから、取引と行きましょう…そうですね、今回は貴重なお話も聞かせていただきましたし、貴女の1番大事なもの、その人形、ヤドリさんで手を打ちましょう」
「………………」
ヤドリは駄目! そういおうと思ったのに、声はでなかった。
どこか心の中で故郷が欲しいと一瞬考えてしまったからだ。
ヤドリはとても大事だ。けれど、時が動いているのなら、直にまた魔法が消え、ヤドリが消え、最終的に私は世界から必要にされなくなってしまう。
必要にされなくなることがどれだけ怖くて嫌か、独りぼっちになってしまうことがどれだけつらいか。
それを身を持って知ってしまったからこそ、迷ってしまう選択だった。
もしこれが昔だったら、迷わずヤドリをとった。だけど今は現在。時は過ぎている。
「一二三。お別れだよ。」
ぼそっとヤドリがいった。
「?何で?私はヤドリをなくし…」
「私には一二三の気持ちがよく分かるんだよ。凄い苦しいでしょ?崖っぷちにたってるでしょ?そんな一二三を見てるのが、私はつらいのさ。私は、一二三に悲しい思いをしてもらいたくないんだ。必要のないところで、自分をせめてほしくないんだよ」
私の話を遮ぎり、ヤドリが私の眼を見て話す。
強い眼だった。でも、奥底には悲しい感情が入っていた。
私はその眼を直視できなくて、思わず下を向く。
「ヤドリ…。私はヤドリの他には何もないんだよ…。ヤドリがいない故郷の世界なんか、私はいらない…」
沈黙。
今言った言葉はさっき一瞬思ったものと全然噛み合っていなくて、嘘だと思った。
どうすればいいのかな?それしか頭に浮かんでこない。
白縫さんは噴水に腰掛け本を読んでいる。決まるまで待ってくれるようだ。
「私だって怖いんだよ」
ヤドリはいった。
「未来で一二三は魔法が使えないんだ。私は動けなくなる…なにも話せなくなっちゃうんだよ?そんなの嫌だよ。一二三が悲しんでるのをじっと座ってみてるあの状況には絶対なりたくないんだよ」
それは私と一緒で、体験したからこそある恐怖なのだろう。
でも、だからこそわからなかった。
冷静にならなきゃいけないと思うが、動揺が隠せない。
「そ、それでも私はヤドリといたい。ま、まだ未来まで時間は…あ、あるし…それまでに私が方法を探せば…」
「私は、いたくないよ?結果は見えてる。私達の力じゃ、方法を見つけたとしてもそれを実行することはできないよ」
何も言えなかった。心の中ではヤドリの言っていることが分かっていたから。
夢を語る私にヤドリを止める権利はなかった。
「…ヤドリ。ありがとう、今まで…今までありがとう」
だから、私はそういって、思いっきり笑いかけた
「ごめんね。ヤドリ…私が…私に力がなかったばっかりに…ごめんね」
まぁ、その笑顔も長続きせず、涙が溢れてきてしまったけれど
「謝らないでよ。一二三はこれからいろいろ学んでいけばいいんだよ!」
ヤドリも顔もゆがんで、涙がこぼれる
こう言うとき、2人とも泣いてるとき、どうやって涙はとめればいいのかな?私にはまだわからない。
だけど、きっといつかわかる。
私はいつか絶対にわからないといけない。
ふとそう思った。