ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.120 )
- 日時: 2010/08/01 22:14
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【47】
スッと光が消え、2人の正体が現れる。
伊咲夜さんをみると、急いで身だしなみをチェックしていた。そしてスカートの裾をつかみ見事な一礼。
「詩句さま!お帰りなさいませ!!」
そう、そこにいたのは“詩句”さん張本人と、昨日出会ったセシルさんだった。
伊咲夜さんが顔をあげると同時に“詩句”さんは伊咲夜さんに抱きついた。
「伊咲夜!伊咲夜!久しぶり、また会えて嬉しい!」
「私もで御座います。嗚呼、こんなに汚いお召し物を…今すぐ着替えの準備を致します」
伊咲夜さんはそういい、準備しようと動こうとするが、“詩句”さんは離さなかった。
セシルさんは立ち位置変わらず、この前同様、笑顔を浮かべていた。
まったく気持ちは読めない…
ボクがいると、名前の事で物語がごっちゃになってしまいそうだ。
「伊咲夜さん。ボクは部屋の外で待ってますね」
聞こえていないと思うがボクはそういって静かに部屋から出た。
長く入り組んでいる迷路のような廊下をあらためて見ると、それは深い深い闇でしかなかった。
窓もないから光も差し込まず、それこそ一寸先は闇。
自力で帰ることは不可能と思い、ボクは扉の半分に寄りかかった。
「おやおや、魔導の者が崇拝する絵に寄りかかるなんて、相当の侮辱だろうね。別にどうでもいいけど僕はオススメしない」
セシルさんが僕の寄りかかっていない方を開け、笑顔を覗かせながらいった。
急だったのもあり、僕は驚いて寄りかかるのをやめた途端尻餅をついてしまった。
「あはは。詩句君だったっけ?ホント、キミはおもしろいね」
セシルさんの笑い声が廊下にこだまする。
「笑ってないで、手くらい差し伸べてほしいですね。セシルさん!」
ボクはムッとし、立ち上がりながらいった。
「いやいや、キミは男の子だ、手を貸さずとも立ち上がれなくてはね。それにもうその時は終わってしまったし」
「そうですね」
ボク相づちを打ち、入る前同様、その扉に書かれた絵を見る。
青髪の女性は消えていた。
赤い滴は青い滴になり、それを素手で掴もうとするとんがり帽子を脇に抱えた7人の人の絵と変わっていた。
「?何で…青髪の女性は…?」
「そんな驚くことはないんじゃないかな?魔法使いが崇拝する絵だよ?変わっていてもおかしくはないよ。僕は旅芸人をしていてね、こんな話を聞いたことがある」
セシルさんはそういって勝手に語り出す。
別にボクは聞いても損はしないし、むしろ謎が解けて得だろうと考え止めなかった。
「魔術師の崇拝する絵は青髪の後継者が悲しみに暮れている時だけ絵柄が変わる。青い滴はその証。そして彼女が居ない時。それはその場に彼女が居る証。もし、そんな事態があれば、とんがり帽子を後継者に掲げることだ。おもしろいよね」
…いや、別におもしろくはないけど。
てか、それがこの絵に起きてるって事は後継者がこの場に居るってこと?
「…セシルさん、後継者なんですか?でも青髪じゃありませんよね?」
「ホント、キミはおもしろいね。僕はただの旅芸人だよ?魔法なんか使えないよ。なんだ、せっかく教えてあげたのに、キミは随分鈍感なんだね」
「?セシルさんにはわかってるんですか?」
「もちろんだよ。逆に何でキミが分からないのかが分からない。まぁ、そんなことはいいよ」
セシルさんは緑の目で舐めるように扉の絵を見ながらいう
どうでもいいなら話さなければいいのにな。
そう思ってると、中から“詩句”さんの声が聞こえてきた。
「セシルさん!詩句さん!来てください」
「“詩句”が呼んでるね。じゃあ行こうか詩句君」
セシルさんはややこしいな。と笑いながら扉を開ける。
「あ!そうだキミ」
一瞬扉を閉じて、ボクの方を見る
「何ですか?」
ボクは尋ねた
「“詩句”のお願いを叶えてあげてね?僕らはできれば友好に終わらせたいんだ」
ボクは首を傾ける。いったい何を終わらせるんだろう
「あとさ、扉閉じる時、僕の髪の毛も一緒に閉じないようにね!あれ痛いからさ」
「…はい?」
疑問符をつけて、ボクは了承した。
深刻な話っぽかったのに、次にいうのは戯言。
お決まり過ぎるはずのそのテンポに急に出くわしても、残念ながらボクには対処できなかった。