ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.121 )
- 日時: 2010/08/01 22:16
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【48】
中にはいると、水晶玉がなくなり、テーブルには紅茶とサンドイッチが置かれていた。
イスもあり、その1つにはもう“詩句”さんが腰掛けていた。
着替えも済ませ、隣には伊咲夜さんもたっていた。
「2人も座ってください。伊咲夜、紅茶ついで」
「“詩句”。どうやったらこんなに素早く完璧にお茶会ができるのかな?」
セシルさんがサンドイッチを1つ取りながら聞く
「伊咲夜が準備してくれました。伊咲夜にできないことはないんですよ?」
“詩句”さんが得意そうにいう。
「記憶の間は主人の部屋と同じくらい、万が一に備えてできています。抜け道くらいあるのは当然です」
伊咲夜さんが補足した。
「抜け道があるなら、ボクが来る時、そっちを使えばよかったんじゃないですか?」
ボクは熱い紅茶に飲むのを躊躇しながらいった。
「伝統ある通り道を通った方がよろしいと思い、判断しました」
「詩句君はホント、馬鹿だよね!抜け道ってのは確かに近道でもあるけど、隠れ通路だよ?身内以外に教えたら隠れじゃないよ?」
…まぁ、通常の通路を通ったことであの扉の絵を見ることが出来たんだし良かったのだろう
「もしかしてセシルさんがいっていた詩句さんですか?」
“詩句”さんがふとボクに尋ねる
「あ、はい。ボクは確かに詩句と呼ばれてます。記憶喪失で本当の名前が分からないので、柊さんがつけてくれました」
柊さんの事を“詩句”さんは知ってるはずだ。
「柊…さん。セシルさんのいったとおり、この世界にいるんですね」
「“詩句”、少しは僕を信用してよね。昨日居るっていったでしょ?」
セシルさんが呆れていう。“詩句”さんはテヘヘっと笑う。
「だって、信じていても本当かどうかは催促しないといけませんよ?それに教えてくれたリコリスさんは時に嘘をつきますしね。まぁ、今回教えてくれたことは本当だったみたいですけど」
「リコリスさんに出会ったんですか!?」
ボクは思わず身を乗りだしてしまい、紅茶をこぼしてしまった。伊咲夜さんがすぐ拭いてくれたが、視線が恐かった。
「詩句君のいってるリコリスっていうのが、紫ローブの心を読む不吉な変人のことをいってるのなら肯定するね。あ〜思い出させないで!」
…よっぽど虐められたらしい。
確かにセシルさんはリコリスさんにとって虐めやすそうだ。
「リコリスさんはセシルさん同様、ワタシの味方をしてくれたんです!今回も上手く行くようにっていろいろ教えてくれました!」
“詩句”さんは目を輝かせていう。
「あの、今回って何でしょう?今回って」
「まった、ストップ!“詩句”、少し黙っててね?詩句君。僕はさっきキミにお願いしたよ?でも、協力するしないに関わる前に、キミは今なら逃げられるよ?伊咲夜さんにお願いして、ここから逃げて、僕と一緒に他の世界へ行くこともできるよ?」
「セシルさん?ワタシの事を最後まで手伝ってくれないんですか?」
“詩句”さんがセシルさんの話を聞いて動揺した顔を見せる。
「いいや、“詩句”。僕のできることなら手伝うつもりだよ?だけど、詩句君だって選択権はあるんだよ?」
深刻化した話。空気が重くなった気がする。
どうやら今回。ボクは何かわからない協力をする前に、何も聞かずに逃げる事もできるようだ。
ありがたい選択肢だが、ボクの好奇心は強い。何も聞かずになんてできるわけなかった。別に聞いてから逃げることだってできるはずだ。
できなくてもなるようにはなるようにも思うし。
「“詩句”さん。ボクの質問に答えてもらえますか?今回って何でしょう?」
「残念だな。まっいいか。僕に影響はないし」
ボクの選択に、セシルさんは笑う。残念というのは口だけのようにただいつものように笑顔を見せた。
「セシルさん。もういいんですね?」
“詩句”さんが催促する。
セシルさんはコクっと頷いた。
「伊咲夜。一番遠い部屋から1本蝋燭を取ってきてもらえる?長い時間をかけて行ってきてね?あんまり長いときはワタシがちゃんと呼び戻すから」
「畏まりました」
伊咲夜さんは裏道を使わず、部屋を出ていった。
ボクでも分かったが、きっと人払いということなのだろう。