ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.122 )
- 日時: 2010/08/01 22:16
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
「質問に答えますね、詩句さん。ワタシは柊さんを封印しに来たんです。それが今回の意味です」
“詩句”さんがボクの目を見ていった。
何故柊さんを封印しにきたのか、ボクには理解できなかった。
だいたい柊さんは“詩句”さんのお陰もあり、呪いやまじないで“世界の業”を超越している。
そんな簡単にできるのだろうか?
「詩句さんは理解できないみたいですね。詩句さんが思ってるのより、柊さんは幸福の敵であり世界の驚異何ですよ?」
「“詩句”さんこそ分かってないんじゃないんですか?柊さんは空兎時。相当酷いことをしていたのはいろんな人からボクも聞きます。でも今は、柊さんは暢気に喫茶店の店長をやってるんですよ?人助けだってしたこともありますし…」
ボクは“詩句”さんに反論する。どんなに昔悪いことをしていたとしても、今はしていないのだから引きずることはないと思ったからだ。
「詩句さんは全然分かってません!今のその暢気さは、昔からありました。あの人はそういう人です!暢気な顔をしてるのに、考えてる事はいつも残酷なんです!腹黒なんですよ!」
“詩句”さんのいうその言葉にボクは反論できなかった。
ボクは昔の柊さんと今の柊さんを悪と善にしか分けられない。
それも人の意見とボクの天秤でだ。
でも、心の奥では何故か違うと言い続ける。
「“詩句”。熱くなりすぎだよ?詩句君の意見も尊重しないとね!」
セシルさんがサンドイッチをもう1個取りながらいう。
「そうですよね。詩句さんはワタシが空兎に属していたのは知ってますよね?」
ボクはコクっと頷く。
「柊さんにも罪はありますけど、ワタシにも同じくらい罪があるのを感じているんですよ」
“詩句”さん…は俯いていう。まるで懺悔するように。
「なら、罪は償わなきゃいけないんです。柊さんを封じなきゃいけないんです」
「…それは自己満足なんじゃないですか?柊さんを封じれば幸福になる。故に罪がなくなる。そんなの何も関係はないじゃないですか」
「そうです。自己満足でもいいんです。昔、空兎を全滅させようとした時も自己満足だったかもしれません。それでも、誰かは救われるはずです。少なくともワタシは昔からの罪の重さから解放されるんです」
“詩句”さんはどうやら空兎に入ったこと事態、後悔してるようだ。
「…セシルさんは何故“詩句”さんに協力してるんですか?」
話をセシルさんに振る。
「そんなことどうでもいいよね。キミはどうやら納得したようだね」
「では、柊さんのところへ案内してください」
セシルさんは鋭いところを突く。
「確かにボクは納得しました。“詩句”さんも大変な思いだったのは分かります。だけど、ボクがここで案内してしまえば、ボクはそれを悔やむかもしれません。宿主がいなくなるんですからね。ボクは案内できません」
言い訳だった。柊さんのところへ案内したくないと思いながらも、理由が分からなかったから。
それを聞いて、“詩句”さんは手を合わせて笑う。
「そんな心配無用ですよ?宿主がいなくなってしまった詩句さんはワタシ達と一緒に来ればいいんです。柊さんはワタシの呪いで他世界に移動するのがつらくなってますけど、ワタシ達なら詩句さんの故郷を探すこともできますし!」
他世界に行くのがつらい?
でも、柊さんは自ら骨董品屋を故郷へと送っていったことがあったはずだ。
やっぱり柊さんは良い人なんだ。
ボクは確信した。
「それでも、ボクは案内できません」
“バリンッッッ”
「詩句君。僕はさっきお願いしたよ?“詩句”の願いを聞いてって!」
セシルさんがカップを壁に投げつけていう。
「お願いされました。でもボクはそれを聞くことは出来ないんです」
セシルさんは今にも飛びかかってきそうだ。
「セシルさん。暴力はだめですよ?友好的に行きましょうって決めたはずです」
「わかってるよ“詩句”。」
セシルさんは“詩句”さんに釘を刺され、深呼吸。
「詩句さん。本当に協力してくださらないんですか?」
“詩句”さんの催促にボクは頷く。
2人は顔を見合わせ、溜息をつく。
「詩句さん。ワタシの歌には2パターンあるんです」
突然、“詩句”さんは話を変えた。ボクは黙って聞く。
「1つは全体に効力を表すもの。これは耳を塞いでしまえば聞こえません。全体にかけるので、威力は低いんです」
「何が言いたいんですか?」
“詩句”さんはボクの質問をスルーして続ける。
「もう1つは1人に効力を現すもの。これは耳を塞いでも、心に直に伝わるものなんです。大勢にはむいてませんが、1人ならこれが最適なんです」
「詩句君。“詩句”を許してね。本当は僕らこんなことしたくないんだよ」
どういう意味か理解しようとしているうちに、“詩句”さんが目を閉じ、歌い出す。
最初は分からなかったが、ふいに“詩句”さんの十八番は歌に呪いやまじないを込める魔法だと思い出す。
耳を塞ぐが聞こえてくる。どうやらさっき言っていたものの後者のようだ。
手が足が身体が震える。
頭が酷い頭痛におそわれる
視界が歪み、声も出せないままその場にボクは崩れ落ちた
“詩句”さんの歌声が遠くなる。
とても、とても遠くなる。
自分の身体の震えからも、頭の酷い痛みからも何もかもから遠くなっていく。
うっすら最後に見えたのは、セシルさんの笑顔で、それを見た途端、急激な眠気におそわれて瞼が閉じるように、急に視界が暗くなった。