ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.124 )
- 日時: 2010/08/02 21:56
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【49】
ボクがふと目を開けられると理解できた時、目の前には大きな画面があった。
周りはどのくらい広いのかわからないくらい黒く塗りつぶされているのに、目の前の長方形だけは明るく光っていた。
まるで映画館のようだ。拷問用のようなイスに座らされ、足が鎖で固定されている。
その鎖は音もしないし触れない。なんだか変な鎖だった。長さは3メートルくらいだろうか?
しかし、ボクには動く気が起こらない。
ただ、まだ何も映らない画面を見つめている。
「そろそろいいんじゃないかな“詩句”」
セシルさんの声が画面の中から聞こえる。
「“詩句”様。詩句さんはどうなさったのでしょうか?全然ピクリとも動かず寝ていますが…」
「伊咲夜は気にしないで、しょうがないことなの。これはしょうがないことなんだよ」
伊咲夜さんの声も“詩句”さんの声も聞こえる。
聞こえるだけではなく、画面には手が映った。ボクの目の前で振っているのか上下している。
きっとこれは伊咲夜さんの手だろう。
どうやら画面は最初からちゃんと映っていたみたいだ。ただ天井が真っ白だったからわからなかっただけで…。
ちなみに高音質。高画質。最新TV並だ。
「詩句さん起きれますか?」
さっきの“詩句”さんの歌声同様、直に響く。
思わず返事をするか悪態をつこうとするが声は出ない。
その時、これが束縛だと、初めて理解した。
画面は変わっており、満足そうな顔をしたセシルさんと“詩句”さんの顔が映っていた。
「いや、いつも感激するよ。“詩句”の歌は正確だよね」
「そうですか?ご免なさい詩句さん。悪いようにはしませんから」
もう悪いようなんだけどな。
どうやらボクは傍観者となり、命令を何でもきく人形となってるようだ。こっちの声はあっちに届かないがあっちの事は一方通行で届く。
「伊咲夜。夕食つくっておいてね。ええと5人分かな?無花果のタルト忘れないでね!」
「かしこまりました」
伊咲夜さんは厨房へ向かっていく。
「じゃあ行こうか“詩句”」
「詩句さん。柊さんのとこまで案内してください」
そういいながら“詩句”さんはボクの目のちょっと上。額に手をやる。
すると画面は暗くなり、何も映らないし、聞こえなくなった。まるで電源が切られたように。
『ダレカ…イル…?ヘンジ…ホシイ』
画面からではなく、暗い闇の中から声が聞こえたような気がする。
催促したいが声はでない。
それにいくら耳を澄ましても、もう声は聞こえてこなかった。