ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.125 )
- 日時: 2010/08/02 21:56
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【50】
時計がないから時間がわからないが、長い時間がたった気がする。
そろそろ立ち上がって周りを歩いてみようかと思っていたら、やっと画面はついた。
どうやら柊さんの喫茶店のようだ。
全然短い距離だと思うのだが、人間、何もないところで何かを待っている時って余計時間が長く思えるものだ。特に独りだと。
「久しぶりですね。柊さん。ワタシのこと覚えてますか?」
「おやおやぁ?“詩句”ではありませんか。よくあの世界から出られましたねぇ。旅人でもないのに」
柊さんがリコリスさんとトランプしながらいう
「セシルさんが来てくれましたからね。寒い地でいつまでも独りぼっちなのは自分で選んだ道でも悲しかったです」
「あはは。そうでしょうねぇ。いやいやぁ、詩句と“詩句”が揃っているなんておもしろいですねぇ。詩句には紅茶をいれてもらいたいんですけど?」
“詩句”さんの顔が少しひきつる
「この光景を見て、まだそんな戯言いえるんですか!?詩句さんはあなたが抵抗しないようにするための人質ですよ?」
…まさかそんな使い道がボクにあったとは。
快く案内してもその後この状況じゃ、ボクの立場最初からなかったんじゃ。となると今のこの状況は本当に人質みたいだからいいのだろうか?
まぁ、それこそどうでもいいんだけど
「リコリス。もしかして柊はハメられましたか?」
柊さんの笑みが消え、リコリスさんを軽く睨む。
「いえいえぇ、リコリスはただ今日は外出せず、丸一日トランプをやっていようといっただけですよぉ?久しぶりに遊んでくださいとお願いしただけですよ?」
リコリスさんは金色の目を光らせ、身体全体を震わせる。どうやら笑っているようだ。
…ハメられる柊さんも柊さんだけど。
「紫フードは“詩句”の手伝いしてただけだよ?別に恨むことはないと思うな。それに“詩句”だってキミを殺すわけじゃないんだ。封印…ま、永遠に眠らせてしまおうって考えなんだから、許してあげてよね」
セシルさんはいつもの笑顔をつくりつづける。初対面の人でもペースを崩さないってところは、柊さんもだけど尊敬できる…
「殺すことができないから、殺さない。それはただの逃げですよね?柊はそんなことでこんな楽しい世界とおさらばなんてしませんよ?」
「大丈夫です。柊さんは世界から離れることはありません。世界からは一方通行で観賞はできますから。高度ですけど、さっき詩句さんで試したらちゃんとできました。危険はありません。前みたいに、しくじることも」
…案内人に人質。それに実験台。ボクの使い道はかなりあったみたいだ。
どうやらボクに使った歌が今回の作戦だったみたいだ。まぁ、確かに封印。いってしまえば束縛。
「柊が詩句を見捨てない保証なんてないと思いますがね」
「悪あがきはやめてください。柊さん。ワタシと空兎の件が終わる少し前から、あなたは次のことまで考えていたそうですね。次の災いには今の詩句さんが必要なはずです。乗りかかった船なのだから、あなたはこんなことで降りないでしょう?」
“詩句”さんはさらりと言ってのけるが、ボクにはわからないことばかりだ。
ボクが柊さんに助けてもらったのは偶然のはずだし、そもそも災いって何なんだろう?
質問できないのはやっぱりつらいなぁ。
画面に触れてみるが、指紋さえ残せないし、反応がない。
「リコリス、そこまで教えちゃったんですね。あなたが何を考えてるのか本当にわかりませんね」
「リコリスは柊に何の恨みもないことくらいはわかっておいてくださいねぇ」
柊さんはチッと舌打ちした。
いくら温厚な柊さんでも今回のはわかる気がする。
「どーでもいいからさ、早く封印しちゃおうよ。詩句君は“詩句”の手の内だよ?紫フードの鏡で心から壊しちゃうことも出来るし、そもそもその辺の水路に身を投げるよう“詩句”はお願い出来る。おとなしくした方がいいと思うな」
セシルさんがそういうと、柊さんはひとつ溜息をつき、にっこり笑って両手をあげた。
こちらから観賞できないとわかっていても、ボクは立ち上がり、画面を蹴った。
痛みは感じられなかった。
「詩句さん。つらいのは十分分かってますけど、おとなしく見ててください。これはワタシなりのサービスなんですよ?柊さんがまだ自分の意志で動いてる姿を最後まで見せてあげてるんですから」
“詩句”さんはわざわざボクの方を向いて説明してくれた。術者の“詩句”さんには、ボクが画面を蹴っているのが分かってるみたいだ。
でもそれは言葉のエゴで、ボクには認めることはできなかった。
やめずに蹴っていると、また額に手を当てられて、画面は暗くなった。
結局。ボクは最後まで利用された。最後まで柊さんの枷となった。
深い罪悪感におそわれる。
セシルさんが選択権をくれた時、好奇心なんか出さず、逃げていれば少なくともこんなことにはならなかっただろう。
自分を責めていると涙がでてきた。
ボクはその場に崩れて、ひっそりと泣いた。
バンシーの血の通ボクだが、涙を飲んでも声が出せないので願うことはできない。
罪悪感につぶされて、このまま消えて行きたいくらいボクはくやしかった。