ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.128 )
- 日時: 2010/08/03 19:54
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【51】
『見ツケタ…誰カ…泣イテル。7テク…ノ血、見ツケタ』
また声が聞こえてきた。変なカタカナ表記のカタコト言葉。
冷たい透き通るような声だ。
立ち上がって前を見ると、灰色の髪、赤眼の少女がズタボロの浴衣を着てそこにいた。手足は血がないくらい白い。てかその人には手はあっても足はなく、宙に浮いていた。
ボクは驚いたが声もでず、相手に失礼だとも思ったのでペコッと頭を下げた。
ボクはこの人をどこかで見たことがある気がする。
『話セナイ?…7テク…アナタ血…欲シイ。返シテ…力、ナレル』
7テクと言うのはこの子の名前だろうか?
イマイチ分かりずらいが、どうやらボクの血が欲しいらしい。
いったいこの子は何なんだろう?吸血鬼だろうか?幽霊だろうか?それともボクの夢の住人だろうか?
7テクちゃんはなんだかイライラしはじめる
『早ク…聞コエナクナル!血クレル?クレナイ?』
ボクは黙っていた。首を縦にも横にも振らない。
ボクはこの子を夢の住人だと考えることにした。
こんな変なお助けキャラを、ご親切にも“詩句”さんが出してくれるとは思わないからだ。
きっと、柊さんを助けられなかったばかりの慰めとして、ボクは夢の中でこんな変な子と出会っているのだろう。
それにしても我ながら変な趣味だ。
別にロリコン受けするような子じゃなくてもいいと思う…
『来ル…考エテテ』
7テクちゃんはボクの涙を拾いながらそんな言葉を残して消えた。
もう一度画面が映った時にはもう館に残っていた。
中庭に大きなテーブルがおかれ、ボクはイスに腰掛けていた。隣には“詩句”さんが座っている。前はセシルさん。
シーザーサラダ、冷製カルボナーラのトリュフ乗せ、レーズンが入ったふかふかのパン、トウモロコシのスープ、豚肉のハーブ蒸し。デザートにはブルーベリーのジェラートアイスと無花果のタルトがあった。
昼食以上においしそうな料理が1人1人の前に置かれている。
「詩句様申し訳ございません。お帰りになる予定がありませんでしたのでいい素材があまり手に入りませんでした」
「謝ることはないよ。ワタシが悪い!伊咲夜も座って食べてっていいたいところだけど、残ってるもう1つを記憶の間にいる柊さんにも持っていってあげて。食べてくださいっていえば食べてくれるから」
“詩句”さんはニコッと笑っていう。
どうやら柊さんは記憶の間にいるみたいだ。きっとボクみたいに動けないのだろう。
「畏まりました。お料理が冷めてしまいますから、先に食べていてください」
「あ!いいの?じゃあいただきまーす!!」
セシルさんはずっと待っていて我慢ならなかったみたいだ。即食べ始めた。
「詩句さんも食べていいですよ」
そういうと目の前の料理がフォークでとられ、減っていく。
どうやらボクが食べてるようなのだが味は感じられない。あんなにおいしい昼食同様、伊咲夜さんが腕を振るってつくった夕食を堪能できないのは凄く損してるように感じる。
「“詩句”は親切だね。詩句君はもう用無しのはずなのに食べさせてあげるなんて。それも僕らと一緒にね。柊さんは独り幽閉されてるのにね」
セシルさんがパスタを巻きながら笑う
「詩句さんは悪いことはしてません、ワタシが利用しただけです。このまま解放してしまえば柊さんを助けようとするでしょうから、それを停めるためにまだ術をかけてるだけです。その他は問題ないんですから、躰(うつわ)の方は贅沢をさせてあげます」
「魂は閉じこめてるのにね。それも自己満足?償い?」
「そうです…自己満足です」
“詩句”さんはうつむく。
結構ボクのいった言葉を気にしてるようだ。
それを使うセシルさんもどうかと思うが…
カツカツと忙しそうな足音がして伊咲夜さんが帰ってきた。
「詩句様。柊さんはお食事を口に運ぼうとなさりませんが…」
伊咲夜さんは困った顔をする
「き、気にしないで伊咲夜。きっと食べたくないんだよ」
“詩句”さんは動揺してるみたいだ。
「あはは。詩句君にはきいたけど、柊さんにはきかないみたいだね!」
「服従は結構強いのを使ったはずなんですけど、さすが柊さんですね…。でも硬直と切り離しは成功してますから動けません。大丈夫だと思います」
“詩句”さんの握るフォークがカタカタと震える。よっぽど柊さんの反撃に怖がってるようだ。
「柊さん。今度こそキミを殺してしまうだろうね。僕も殺されるのはゴメンだからね?」
セシルさんが煽る
「わ、分かってます!!リコリスさんは成功したっていってましたし…」
「そういいながらアイツも消えちゃった。ホントに無責任だよね!」
「いいかげんにしてくださいセシルさん。詩句様、そんな心配することはございません。万が一何かありましても、最後まで私が側にお仕えします」
伊咲夜さんが“詩句”さんに笑いかける
「あ、ありがとう伊咲夜…ゴメン、今日はもう寝る。セシルさん、何か困ったことがあったら伊咲夜にいってください。詩句さんは食べ終わったらさっき寝ていた部屋に戻ってください。伊咲夜、記憶の間にいってまだ夕食に手をつけられていなかったら片づけて。それとワタシの部屋と記憶の間の扉の鍵を強く、しっかり閉じておいて。絶対!」
「畏まりました詩句様。お部屋までお供致します」
伊咲夜さんと“詩句”さんは館の中へと戻っていった。
「“詩句”はおもしろいよね詩句君。自分でやってることに自分で怯えてるんだよ?自己満足のためにやったことなのに満足できないんだね。ホント、おもしろすぎる。だから僕は彼女を手伝ってるのかもしれないね」
食べる音だけが聞こえる。
「でもさ、僕はキミのことも気に入ってるんだよ?だから先に教えておいてあげるよ。キミの本当の名前は澪(レイ)。紫ローブがいうんだから間違いはないよ?感謝なんてしないでね。これはエゴなんだからさ」
セシルさんは席を立ち、ボクの横に来る。
「じゃあ澪君、お休み」
そういって額に手を当てた。
画面が消え暗くなる。
澪。なんだか懐かしい響きだ。
最後に呼ばれたのは何時のことだろう?
最後に呼んだ人。その子は女だった気がする。鐘の音が聞こえてきた。鳴かないはずの兎の鳴き声も。
kyー、kyーと鳴くあの声が