ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.133 )
- 日時: 2010/08/06 19:39
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【52】
ハッと目を開けると、ボクはイスの上で丸くなって寝ていた。
相変わらず画面は暗い。きっとまだ朝ではないのだろう。
かなり小さくなって寝ていたので、これは伸びたら痛いだろうと思ったが、実際やったところ全然痛みなんて感じられなかった。
“詩句”さんとセシルさんは夕食の時、躰と魂について話していた。
ボクはきっと今魂だけここに居るのだろう。だから痛みも鎖の重みも感じない。
『よくこんなところで寝れますねぇ、詩句』
柊さんの声がした。
だがボクがそっちの方向を向いても、柊さんの姿は見えない。思わず首をかしげる
思わず名前を呼んでみようとして声が出ないのに気づいてムッとした。
『声だけの存在ですから見えはしないと思いますがねぇ。姿形を表してしまったら、“詩句”に気づかれてしまうでしょうし』
ボクはでもしない溜息をつく。
見えない存在と話すほど難しいことはないだろう。まず目線をどこに置けばいいのか困る。ボクはしかたがなく何も映らない画面を見つめた。
『話せないのは厄介ですねぇ。少々荒療治ですが、治しましょうかぁ?』
ボクは頷いた。柊さんと動ければここから出ることは容易だろう。だが、話せないのは独りでいるならいいのだが、誰かといる時一番困る。
まぁ、手話とか以心伝心とかジェスチャーが得意な人はさほど困らないが…。
残念ながらボクは言語以外で人と話すことができるほどの特技は持ち合わせていない。
『ジッとしててくださいねぇ?一回で終わらせたいですから』
ボクはイスの上で硬直する。
いったい何をされるんだろうか?
そんな事を暢気に思っていたら、いきなりヒュッとあるはずもない風を斬る音がした。
首が異様に熱くなる…噴水から水があがるように何か液体が飛び出し、ボクの左半分にボタボタと音を出しながら飛び散る。
ぐらっと視界が揺れ、イスから転げ落ちそうになる。慌てて手すりに捕まるがいつもより力が入らない。
ふと、イスの周りを見る、それから自分の左半分を。最後に熱くなっている首を触ってみる…
全てが赤かった。
まるでボクの目に赤いフィルタをかぶせたように赤かった。
思考回路がやっと冷静に考えはじめる。
①首が斬られている。損傷あり、重傷、致命傷
②呼吸器官、食道には問題なし。頸動脈、今回の損傷のため真っ二つ
③多量出血にて死亡率あり。いますぐにでも出血を停め、適切な対処以上のことをすれば問題なし。
通常伝わってくるだろうと思われる痛みは感じない。きっと“詩句”さんの束縛のお陰だろう。
声はいまだに出ない。
柊さんにそんな恨まれる事をした覚えはないのだが…殺されるほど悪いことはしてないと思うのだが。
そんなことを考えてしまう思考回路はやはり壊れているようだ。
躰と離れている魂も血が出るんだなぁ。てか、躰と離れているのに魂あけ死んだらどうなるのだろうか?
そんな変なことまで心配しながら、ボクの意識は途絶えた。