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Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.136 )
日時: 2010/08/15 15:49
名前: 譲羽 (ID: OcUNQWvQ)

【53】
ボクが目を覚まして一番最初に見えたのは泣いた後のように赤く染まった目を持つ七テクちゃんの顔だった。

首を触ると出血は止まっていた。傷も塞がっているしきっと誰かが治してくれたのだろう。

七テクちゃんはボクの夢の住人のはずだ。ならばここは天国だろうか?

珍しく真面目にそんなことを考えながら周りを見渡すと、ボクの足はまだ鎖が付いており、ずっしり重く感じる。目の前には例の画面があった。どうやら座っているところは例のイス…。

どうやら死に損なったようだ。きっと地縛霊にでもなってしまったのだろう。

普通の人間なら、頸動脈を斬られてしまえば痛みなく簡単に死ぬ。毎度毎度言うが、ボクも例外ではない。

『起キタ?…動カナイ方イイ。…詩句、貧血状態』

そう言われ、初めて気づいたが、頭がガンガンしている。

七テクちゃんの忠告を無視して立ち上がってみると、すぐよろけてしまった。体制を建て直し、一歩歩いてみようとするが、足の鎖が重すぎて動かない。

どうやら痛みやら何やら、そういう感覚が戻ってきてるようだ。

しかたがなくボクはイスに座り直す。

『七テク、束縛説イタ。痛ミ感ジル。話セル!今スグ足枷…取リカカル』

どうやら感覚を戻してくれたらしい。

『…スイまセン』

ボクは話せるなら尋ねようと声を出してみた。見事な裏声…。

それでも七テクちゃんは気にしないでくれたが。

『何?』
『あの、いろいろ聞きたいんだけど、ボクは死んだんじゃないの?それに君はボクの夢の住人でしょ?柊さんはどこにいったの?声が聞こえないんだけど…』

まとめて3つは困るよなとか思いながらもボクはこれまでの疑問を全て言ってみた。

七テクちゃんはちょっとムスっとする。

『ソンナ覚エキレナイ!!…バンシー、記憶力低イ!』

…やっぱり困ったみたいだ。

『ゴメン七テクちゃん。じゃあ1つずつでいいから』
『詩句…死ンデナイ。七テク…吸血鬼…血…調整デキル』

七テクちゃんは一つ深呼吸し、胸を反らせていばって言う。

間の接続語を抜かして話すから微妙にわかりずらい。

『吸血鬼?バンシーってさっき言ったよね??』
『元。バンシー…血抜かれた。…七テク血…求メテタラ…吸血鬼ナッタ』

七テクちゃんは話を膨らませる。

空兎の反乱中。血を抜かれ、ある世界でそこの住民に居候させてもらいながら血を探していたらしい。もちろん血がないと生きていけないから人の血も飲む。ただし殺すのが嫌だったから宿主に代わりに殺してもらっていた。

ある日柊さんとリコリスさんを見つけ、復習しようと思い切って攻撃に出たところ、あっけなくリコリスさんの鏡に閉じこめられたんだとか。

…どこかで聞いたことのあるような話なのだが、はてどこだっただろうか?

『宿主サン優シカッタ!…今デモ大好キ。愛シテル!!』

七テクちゃんは頬を染めうっとりしている。

『七テクちゃんは空兎メンバーなの?“詩句”さんの記憶にいなかったような気がするけど』
『!?分カラナイ…絶対イル!!…詩句、サッキカラ慣レ慣レシイ…。本名ナテクナシクロケット。』

どうやら夢の住人じゃなかったようだ。

てか、ナテクナシクロケットって長くないか?どこが名字でどこが名前なのだろう?ミドルネームも入りそうだ。

『“詩句”さんそう呼んでましたし。ボク、自分より年下に見える人にはちゃん君付けなんで』

そういう設定なので。いまからは変えられません。

それに「ナテクナシクロケットさん」なんて、文字数多くてなんだかすぐ投稿時にエラーでそうでいろんな意味で誰かが困るだろう。

??自分で思っといてなんだが、ボク何の心配してるんだろう。

『…ショウガナイ。柊…“詩句”見ツカッタ。七テク、詩句手伝ウ。血オ礼!』
『七テクちゃんが夢の住人でもないし、柊さんがもうここにいないのは分かったよ。でも微妙に分かりづらいんだけど…』

文句っぽく聞こえるが、いきなり血のお礼だとか助けたのは七テクちゃんだとか、あんなカタカナ言葉でいわれてもイマイチしっくりこないのはボクだけだろうか?

七テクちゃんは泣き出しそうな顔をする。

『うぅ…説明苦手』

…自分より年下に見える子を泣かせるのにかなりの罪悪感を感じるのはボクだけだろうか?

『じゃあいいよ七テクちゃん。まず、ボクの足枷外してくれるかな?』

しかたがなく話をずらす。

『分カッタ!!七テク、バンシーナル前、束縛師!楽勝、楽勝!』

喜びに跳ねながら七テクちゃんは足枷に手を当て目を閉じる。瞼がごろごろ動いているので、どうやら閉じながら中で目玉を動かしているらしい。

『第1関門制覇。第2関門制覇。成功率100%。終了迄残2秒…1…0。全制圧完了。解除確認』

七テクちゃんが目を開け、ニコッとした顔をボクに向ける。

『終了』

七テクちゃんがそういうとパッと足枷と鎖が消えた。イスも一緒に消え、ボクは尻餅をついた。

『痛たたた…』
『ゴ、ゴメンナサイ!!』

即謝られた。土下座とはいかないが、しゃがんで頭を両手でぎゅっとつかみ、なるべく小さくなる。

今にも殴られるのでそれを防御しようという考えからのようだ。

別にボクは殴らないのだけれど。癖なのだろうか?

大丈夫と意思表示のためニコッと笑い返す。

空兎メンバーはボクが笑いかけても存在が消えない。七テクちゃんはバンシーみたいだし大丈夫という確信があった。

案の定。存在は消えなかった。

それにしてもまるで人が変わったようだった。

カタカナ言葉だし、接続詞は間にいれないし、説明は下手だし、謝る時だけ素早いし。

一見かなり頼りなさそうに見えるのに…

この束縛だらけの暗闇の中、その力は、柊さんよりもとても頼もしいと思えた。