ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.20 )
- 日時: 2010/07/14 18:02
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【5】
外にでると下に街が広がっていた。どうやら喫茶店は随分高いとこに建ってるようだ。
横には階段もあったが、何より前には大きな川ともいえそうな水路があった。小舟が置いてある。
「もたもたしないで! いくわよ!!」
蓬さんはもう小舟に乗っていた。ボクも慌てて飛び乗る。
すると、小舟は独りでに動き出した。下へ下へとゆっくり下っていく……。
「あぁ〜。坊やの子守りなんていやだなぁ。」
喫茶店が見えなくなると蓬さんはきりだした。
「なんですか……? さっきは快く了解したじゃないです か。だいたいボクは詩句です……今日から」
「だって、柊は未来の夫だし! 印象もっとよくしてもらいたいし!」
「柊さんはそのつもりはないみたいですよ……?厄介払いぽかったし」
「違うわよ! 柊は照れてるの! だいたいその口の聞き方は何? 年上よ、と・し・う・え・! 敬意をもちなさい」
すました声と態度で蓬さんはいう。
「すいませんでした、おばさん。気をつけます」
ボクもすました態度でいった。
1本取った。蓬さんは悔しくてたまらないようだ。
「フン! 柊に助けてもらって、名前までもらって!! いい気にならないでよね!」
蓬さんはそっぽを向く
「もしかして……。ボクに嫉妬してるんですか?」
「ち、違うわよ! だいたい私だって昔、柊に助けてもらったんだから! 柊はとっっっっっても仲間思いなのよ?」
さっきから仲間とか昔とか、いったい柊さん達は何をしていたんだろう。
「ま! あんたにはわからないでしょうけど、詩句っていえば私達の中では禁句なのよ? かわいそーう。そんな名前つけられちゃって」
かわいそうだと思ってないような笑いをつけながら蓬さんはいう。
「禁句? 蓬さんにお姉さんっていうぐらいですか?」
2本目……。
「くっ! そんなんじゃないわよ。詩句っていうのはあんたぐらいの歳の昔の仲間よ」
少々蓬さんはうつむく。
「詩句はあんたと違っていい子だったわ。人懐っこくて、可愛げもあって。歌が上手だった。柊のお気に入りでみんなのお気に入りだった」
「過去形ですか……?」
「なのに……なのに。あの子は私達を騙して殺そうとした! それでも柊はあの子を信じていたから……。だから仲間の半分が敵対して……反乱を起こして」
蓬さんは血が流れる程唇を強く噛んでいた。
「詩句は……その子はどうなったんですか?」
ボクは恐る恐る聞く。
「ある世界に独りおいてきたわ……。何年も前だし、もう死んでるわ! 当然の報いね!!」
最後は笑う蓬さん。でも目は笑っていなかった。
「ちょっと! あんたとしゃべってたら街の端まで来ちゃっ たじゃない!!」
前を見ると高い壁がそびえたっていた。城壁ともいえる。
「あの向こうには何があるんですか?」
「知らないわよ!! この街には異世界の出入り口しかない し! ある人が草原が広がってるっていえば、別の人は何もないっていう。答えは十人十色!! ……えーと、船! 行き過ぎよ!! 商店街通りまででいいの! 戻りなさい!」
蓬さんはボクの質問に答え、少し迷いながらも船に命令する。
"きゅーい”
船全体に響くように、透き通った何かの鳴き声が聞こえてくる。
一瞬。透明な馬が船の前に見えた気がした。