ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.25 )
- 日時: 2010/07/14 18:04
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【6】
小舟から降りて少し歩き、水路を離れると、たくさんの看板が民家の前にたつようになった。まだ開いてないようだが……。
「あの。さっきの鳴き声はなんだったんですか?」
ボクはふと前を行く蓬さんに尋ねた。
「知らないの? まったく駄目な子。あれは"ケルピー” よ。馬の姿をした水の精霊ってリコリスがいってた。まぁ姿なんか視えないし、信じるも信じないも勝手だけど」
蓬さんには視えないようだ。ボクには視えるのに……リコリスさんと同じだとは思われたくないけど……。
もちろん、蓬さんに駄目ともいわれたくない。
「記憶喪失なんです! 口の悪いおばさんに、駄目な子とかいわれたくないです!」
「おばさん、おばさんってさっきから!! あたしは盗賊よ!? それも20いってないわ! もう1回言うわ、敬意をもちなさい!! け・い・いを!! じゃないとあんたの大事なモノも奪っちゃうんだから!」
「ボクには何もないですよ? だからって喫茶店のモノは盗めませんよね?」
またまた1本。この人バカなのかな?凄く乗せやすい……。イジラレキャラ?
「ぐっ! 生意気!! いいわ。困っても助けてあげないから!」
「うぅ・・・酷いです蓬さん。まっ! 柊さんから頼まれたら断れないでしょうけど」
ボクは泣き真似をしながら蓬さんに反論した。
「あんたねぇ! 柊はそんなに甘くないわよ!!」
堪忍袋の尾が切れたのか、足をとめ、後ろのボクの目を見ていった。
「あれ? さっき仲間思いっていいましたよね?」
ボクが首をかしげて反論すると、前に向き直り、歩きだした。
「あんたなんか仲間じゃないわよ。柊がどういおうと、私は認めないわ!」
……負けた気がする。
でもさっき蓬さんは反乱が起こったっていってた。でも柊さんと仲良くしてるってことは、蓬さんは認めなくてもついてきたってことだ。
根っからのお人好しは柊さんではなく、蓬さん自信じゃないか。
まぁ、柊さんやリコリスさんと違い、リアクションとかおもしろい人だし、そもそも悪い人でもない……。
……今回は引いておこうかな。
少々反省してボクはそう思った。
「今まですいませんでした。起きたばっかりなので毒舌になってしまったみたいです」
ボクは人が変わったようにいった。蓬さんは驚く
「はい? なにあんたさっきまでの勢いは!?っていうか別に"起きたばっかり”って関係ないし…。」
「ありますよ! 寝ぼけてたんです。別にいいじゃないで か。それとももっとボクに毒舌をあびせてほしかったんですか? 蓬さんMですか?」
「違うわよ! ま、まぁ今日は休みの日だからお店が開くのも午後からなの。きっとまわりの眠気にひかれたのね」
無理矢理蓬さんが納得する。やっぱり乗せやすい…。
蓬さんにいわれ、初めて気づいたが周りには数えるほどにしか人がいなかった。
「今日は特に珍しいわ。ほら井戸の周りにしか人がいな い」
井戸の周りに目をむけると大きな笑い声をたてて話しているおばさんがいる。違う方向からも笑い声が水の流れる音とともに聞こえてくる
「ちなみにいっとくけどああいうのをお・ば・さ・んっていうの!!」
蓬さんはかっこよくいいたかったみたいだ。人差し指をたて、わざわざ後ろのボクを見ながら後ろ向きに歩く。
"ツルーン”
「きゃあぁあぁ!!」
……バナナの皮で滑って転んだ。
お約束だろうか?
「ぷっ。あっははっっっはは! あはははあはははははっははっははははっはっっは!!」
ボクは笑った。おばさんの声ぐらい街中に響く
「…待って! ストップ! その笑い声とめて! 詩句!!」
蓬さんは青ざめた声でいう。そんなに転んだのがショックだったのだろうか。
「ははは……すいません。笑いすぎました。蓬さんって転ぶのがコンプレックスなんですか?」
「……違う。そこじゃないの。見て……」
蓬さんはさっきの井戸を指さす。
そこには、おばさんが1人もいなかった。ただ洗濯物が入ったタライや、水が入ったバケツがおいてあった。
さっきまで通りを歩いていた人も消えている……遠くから聞こえていた笑い声も。
普通なら偶然だったといえるだろう。だが、井戸に荷物が残されていたのに加え、消えた人が身につけていたと思われる服だけが残されていた。
「蓬さんが転んだから……?」
「違う……詩句。あなたが"笑った"からよ」
だって、私にはそんな力ないもの。
そういうように蓬さんはいった。
まぁ……ボクが知っている限り、ボクにもないのだが