ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.26 )
- 日時: 2010/07/14 18:06
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【7】
その後。ボクらは急いでその場から逃げるように喫茶店へ帰った。残っていた2人に説明する。
「リコリス氏。どう思いますかぁ?」
話を聞いた柊さんはリコリスさんに意見を求める
「魂くれますかぁ?」
ここでも魂好きは要求する……
「んん……1000分の1。いや1000000000000000分の1くらいならあげてもいいですよぉ?」
「柊!? 正気? 何分の1でもあげたら魂が分かれて、結局は離れていっちゃうわよ!」
「ん? でももう20回ぐらいやってるますしねぇ。柊はみなさんとは“違う存在”なのをお忘れですかぁ?」
ぐっ! と蓬さんが言葉に詰まる…。
「そ、そうね。あんたは“詩句”に歌ってもらったんだったわね」
柊さんはニヤニヤ笑いながらうなずく。この場合の“詩句”は昔の方だろう。
「では、いただきますよぉ」
リコリスさんがそういうと、どこからか鏡を2枚取り出し、片方を柊さんにわたす。柊さんはそれをリコリスさんを映すように持つ。
「ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ」
リコリスさんは鏡を水平に持ち、何かを唱える……。少しすると小さな光が鏡からでてきた。またもやどこから取り出したのかわからない鳥籠にリコリスさんは迷わずその光を閉じこめた。
同時に柊さんがカウンターの後ろで膝をつく……。鏡が割れる音がした。
「柊!」
蓬さんが駆け寄る。
「まったく。高いんですよぉ? その鏡。」
リコリスさんは、鳥籠と鏡をローブの中にしまいながらいう。
柊さんより鏡の方が大事らしい。
「すいませんねぇ。これには何回やっても慣れなくてですねぇ」
蓬さんに肩をかしてもらいながら笑う。
「柊は魂をあげたよ! はやく事情を説明しな!」
蓬さんがきつい声でいう
「ひどいよね! いっつも私は説明ばっかり! まぁ柊の魂が私の手元に集まるのはうれしいけど……」
蓬さんがにらむ。
「わかったわよ…。原因は蓬嬢が言ったように詩句の笑い声です」
みんなにむけて話すときはリコリスさんの口調は混ざるみたいだ。
「詩句の笑い声は“聞いた者の存在を消す”力を持ってるみたい。この世界に来る前にバンシーの血を飲まされたのが原因だねぇ」
「あぁ! バンシーの血。聞いたことありますねぇ」
柊さんはうなずく
「でも何で私は消えなかったの? 一番近くにいたのに……」
「蓬嬢。“詩句”が柊達にしてくれたことを覚えてないんですかぁ? 柊は悲しいです。おかげで柊達は不幸に嫌われてるんですよぉ?」
存在を消す? バンシーの血? 不幸に嫌われている?
謎だらけだ。だが今はそれよりも……
「ボクがいつだれに飲まされたんですか!? その……血を!」
ボクは喫茶店中に響くような大声でいった。
全員が口をぽかーんとあける……リコリスさんはわかんないけど
「魂くれますか?」
リコリスさんはリピートする。ボクの口調で。
「やめて詩句。死ぬから! 柊でも1日に2回はつらいんだから!」
蓬さんは泣きそうになっている。
ボクは迷った。自分のない記憶をできるだけ埋めてしまいたかったから。
「……やめましょうよ。柊も疲れましたぁ。今日は店を閉めます。蓬嬢は詩句の隣の部屋をつかってくださいね……まだお昼ですが寝かせていただきましょう……」
そういって蓬さんの手を払いのけ柊さんは2階へ上がっていく
「そうそう、詩句。これからは本気で笑わないようにしましょうねぇ。事が起こった後ではおそいのですよぉ?柊のお友達の前ではいいですけどねぇ」
それがボクが聞いた初日最後の柊さんの言葉だった。
その日からボクは感情の1つを消した。
ただし、人はそんな簡単に消すことはできない。
ボクは感情をあまり表にだすこともないが、それでもやっぱり負い目はあった。
だからこそ、柊さん達の前では笑ってもいい。
それだけでもボクは嬉しかった。