ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.31 )
日時: 2010/07/14 18:27
名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)

【8】
ボクが感情の1つをなくしてから数日後。

蓬さんはまた違う世界へ出かけていった。かなりはりきっていた。

リコリスさんと柊さんは相変わらず喫茶店に毎日いる。喫茶店は1番高いところにあって来るのが不便なため、お客さんは滅多にこない。

ボクはといえば、街についても少し覚え、1人で歩き回れるようになった。

最近は紅茶のおいしいいれ方をマスターしようと奮闘中だ。カップを温めたり、お湯の温度に気を配らないといけなくて、結構難しい。

「詩句が熱心だから紅茶葉がなくなってしまいましたぁ。買ってきてもらえますね?」

ある日の午後。柊さんは、紅茶缶の中を覗いて言った。

「わかりました」
「今日は雨が降るそうですよ? 折り畳み傘を持っていくことをオススメします」

リコリスさんがふと思いついたようにいう。この時、ボクはリコリスさんの予言を甘くみていた。

「心配性ですよ。こんなにカラッカラの天気なのに」

窓から外を見れば、一目瞭然。太陽が眩しいくらいだ。

「いやいやいやいや。リコリス氏のいうとおりですよぉ? 最近発明された折り畳み傘をフルに使うチャンスだと思いますがねぇ」

柊さんが折り畳み傘を差し出しながらいった。

「柊さんまで心配性です! 大丈夫です! いってきますからね!!」

ボクは2人の助言を振り切って外にでた。

煉瓦の道からは熱気が靴を通して伝わってくる。よく水路の水がかれないなと思わず関心してしまう程だ。

こういうとき、小舟で商店街まで行くのは気持ちいい。水路が多い街で良かったとつくづく思う。

「今日も頼むよ」

薄っらとしか姿が見えない動力にボクは話しかけ、張り切って商店街へと向かった。



やっぱり雨が降った

紅茶葉を買った後、ボクは助言を聞かなかったことを後悔した。

けっこうどしゃ降り。夏におこりやすい夕立という現象だった。

こうなると水路はあふれて使えないので階段を上らなくてはならない……それもずぶ濡れになりながら。

3分の2程上った時に気づいた。紅茶葉は濡れてしまっては使い物にならなくなってしまうかもしれないことに……。

紅茶葉。缶で買うべきだったなぁ。

周りを見渡し、雨宿りできる場所を探す……。

民家は長方形の形をしているためできない……商店街で大人しくしてればできたのに……。いや、それよりも傘があれば……。

ボクが戸惑って、階段の真ん中で自問自答していると女がわきを通り抜けていった。その小柄な体型がもっと小柄に見えるほど大きな傘を持ち。大きな麻の袋を大事そうに持っていた。素足に革靴を履いているのか、歩くたびに水が入って音をたてていた。

「あの! 傘にいれてもらえないでしょうか?」

ボクは迷わずその子に声をかけた。

「………………」

無視されたが、ボクはそれを肯定と“無理矢理”解釈し、いれてもらった。その子は気にしていないようだ。ボクの方を見向きもしない。それとも怒っているのだろうか。

「あの、それお持ちしますよ? 傘も持ってるのに大変でしょう?」

ボクはお礼がしたくてそういった。

「………………」

何の反応もかえってこない……。仕方がなくボクは手を伸ばし、麻の袋を受け取ろうとした。

「……触らないで」

いきなりその子はこちらを向きしゃべった。

「え?」
「そんな濡れた手で“この子”に触らないで。」

透き通った緑の目で軽くにらまれた。

「すいません」
「わかったならいいの……傘を持ってくれる?」
「は、はい」

少々驚いてしまったがそっと傘を受け取る。

「……あ、あの。“この子”って?」

ボクは恐る恐る質問した。

「……みれば分かる。」
「そうですか…」

会話が続かず、やや気まずい……。

“この子”ってことは中に人でも入ってるんだろうか? そう思うとぞっとした。



少し行くと、いきなり路地裏へ曲がった。ボクは自分のより彼女と袋が濡れないよう注意していたので少し焦った。

狭い道を通っていくと、忘れられたようにこぢんまりと店が建っていた。

ガラスの奥には古っぽい服を着た人形が並んでいる……看板を読むと、どうやらここは骨董品屋のようだ。

「……ありがとう」

そういうとボクから傘を受け取り中へ入っていこうとする。

「ちょっとまってよ! ボクに袋の中身をみせてくれるんじゃなかったの!?」
「……………」

また無視される……。っていうか何ていったらいいか迷ってるみたいだ……。いちかばちか。ボクはとっさに紅茶葉を彼女に渡す。

「君、おいしい紅茶のいれかた知らない? 教えて欲しいんだけど……」
「貴方も紅茶が好きなの?」

やっとまともな会話ができた。ボクは微笑んでいった。

「ボクは詩句。君は?」
「私は一二三(ヒフミ)。窓付一二三(マドツキ ヒフミ)」

窓付さんはぎこちなく微笑み返した。