ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.32 )
- 日時: 2010/07/14 18:29
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【9】
店の中は骨董品屋らしく何年も忘れられたようなホコリの香りがした。人形がたくさん置いてあり、その隙間に骨董品らしいカップや鏡。時計が置かれている。どうやら主にアンティークドールを売っているようだ。
店の真ん中に立つと、四方八方位から見つめられている気がして、少し背筋が寒くなった。
そうやって店内をみていると奥からいきなりタオルが投げられた。
「……ふいて。それから奥にきてくれる?」
窓付さんの声が聞こえる。ボクは指示通り、一滴も雫が垂れないくらい念入りにふいた。
タオルをたたみ、奥へ行く……。
奥では窓付さんが紅茶をいれて待っていた。ボクのタオルを受け取り、代わりに紅茶の入ったカップを渡してくれる。
「紅茶の葉が開く温度は95℃以上。紅茶葉はスプーンに3杯が普通」
窓付さんが説明してくれる。まさか紅茶で話しがはずむとは予想外だったけど……。
「緑茶とはまた違うんですね」
「……………」
……どうやら緑茶に興味はないらしい。ボクも黙っていると、窓付さんは例の袋を開けて、人形をとりだした。店に並んでいるのより綺麗な服を着ている……やっぱり古いけど。
「人形のことだったんですね!」
「今日はこの子に似合う服を探しにいったの。……この子は特別だから」
どうやら紅茶よりも話ができそうだ。窓付さんは大切そうに人形の頭を撫でる。
「私がここに来る前からずっと一緒にいてくれてる」
「“来る前”? あなたも違う世界から来たんですか!?」
ボクがびっくりして尋ねると窓付さんは目を見開いた。
「あなたも? 私は………えーと……」
窓付さんはなんだか悩んでいる。これをみると、さっきから無視してるわけではないようだ……。きっと話すのがあまり得意ではないのだろう……。
そう思ってるといきなり人形をボクに渡した。
「人形の声を聞いて……」
窓付さんがそういうと、急激に眠気に誘われた。
夢を見た。
どこかわからない見知らぬ土地……旅人ノ街のように少し古い街並み……とんがり帽子をかぶった人達がたくさん……窓付さんが炉キングチェアに座り、人形を直したりつくったり。まわりでは人形が踊っている——
いきなりテレビのようなノイズがかかり、場面が変わる
高い建物。空飛ぶ車……歩行者など1人もいない。とんがり帽子をかぶっている人もいない……夢がない世界……。
そこで夢は終わった。目を開けると、テーブルをはさんで窓付さんの姿がみえた。うつむいている。
「ゆ、夢を見てました。あの……人形をありがとうございました」
そういって人形を返す。窓付さんはぎゅっと人形をだきしめる
「夢じゃありません。人形の記憶……私の祖国の……」
「え!?」
あんなにガラリと街並みが変わるなんて……どれだけの科学技術を使ったのだろう?
「私は祖国で魔法が使えなくなって……存在が消えそうに……気づいたらこの街に来てた」
「戻る方法とかはあるんですか!?」
ボクはいつもより積極的だった。自分と重なったからなのかもしれない……。
「私は覚えてないけど……この子が記憶してるから……。でも……」
窓付さんの目が曇る……。
「もう祖国では必要とされていないみたいなんだ」
ボクは窓付さんに何の言葉もかけられなかった……。
「すーいませーん。詩句いますかぁ?」
いきなり柊さんの声が外からした。ボクと窓付さんは慌ててそっちに行く。
扉の前には折り畳み傘をさし、くすんだ紫色のローブを羽織った柊さんがいた。
「おぉ! いましたかぁ。リコリス氏が心配してましたよぉ? 柊にローブまで貸してくださいましたぁ。おやおやぁ? そちらはここの女主人様ですかぁ?」
「……………」
「はい。窓付一二三さんです。」
窓付さんが黙っているので、ボクが代わりに答える。
「ほうほう。一二三嬢(ヒフミジョウ)ですかぁ。詩句がお世話になりましたぁ」
「……………」
初対面でも相手が黙っていても、柊さんは変わらない……。マイペース?
「では行きますか詩句」
「あ! はい。窓付さんありがとうございました。また来ても良いですか?」
「……………」
窓付さんは黙っていたけど少し頬がゆるんでいたのをボクは見逃さなかった。
ボクも微笑んで、柊さんの傘に入り、骨董品屋を後にする
「いけませんねぇ詩句。何度も女性の家に行ってはいけないのですよぉ? あははははは」
「じゃあ! 今度は喫茶店に来てもらいます! ……あ! 帰りに紅茶葉を買って行かなきゃ!」
窓付さんに紅茶葉をあげてしまったのを思い出す。
「あははははははは。リコリスが言っていたのでもう買ってありますよぉ?」
どうやらリコリスさんは何でもお見通しのようだ。
雨はやまない。まるで窓付さんの悲しみのように……