ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.35 )
- 日時: 2010/07/14 18:17
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【10】
窓付さんに会って数日。洪水のため喫茶店から1歩もでれず退屈な毎日を過ごしていた。
水路が多いこの街は雨と相性が悪いようだ。
「今は梅雨の時期。じめじめしていてイヤですねぇ」
柊さんがため息をつく。夕立じゃなくて梅雨だったようだ。
「そうですね。いつも柊さんとリコリスさんと一緒じゃあ面白味がないです……」
カウンターに頬をつけて口を尖らせながらいった。
「酷いこと言いますね詩句さん。まあ、少し待ってればお客さんが来ますよ」
リコリスさんはすましていう。
「こんなに雨降ってるのに!?」
リコリスさんの予言にいちおう反論しておくがまだこの前のが教訓になっていた。“半信半疑でも信のほうが多め”といったところ……。
そんなことを思っているといきなり壁にチャックを発見した。
「詩句さん。それ開けてくれますか?」
リコリスさんがそういうのでボクは静かにチャックを開けた。
…………中から出てきたのは例の人形を持った窓付さんだった。
「おやおやぁ? 一二三嬢ではありませんかぁ。いらっしゃーい」
「窓付さん!! どうやって?」
「……空間を跳ぶ程の魔力はないの……でもそこの人が力を貸してくれて」
窓付さんはリコリスさんの方を見る。
「ただの鏡屋の気まぐれです。空間移動は得意ですから」
リコリスさんの金色の眼がフードの奥からみえた気がした。
「お礼なんかいい。一二三さん。あ。そんなびっくりしないで……。心を読むことができる魔法使いにはたくさん会っているはず……」
どうやら窓付さんの心を読んでいるようだ。
「気にしないでください。」
ボクはそういって近くのテーブルに案内する。
「へぇぇ。リコリス氏も魔法使いだったんですかぁ。柊のお友達のなかで、魔法使いは歌静嬢だけだと思ってましたよぉ。」
柊さんが関心した眼差しを向けながら言った。
「いやいやぁ。リコリスはただの魂の集まりなんですよぉ? まぁ今は鏡屋ですがねぇ」
「……歌静さんを知ってるの?」
2人の話にいきなり窓付さんがとびこんだ。
「一二三嬢も知ってますかぁ? 歌静嬢のこと?」
「歌静さんといえば大魔法使い。知らない魔法使いはいないの」
話がみえない……。歌静さんってだれ!?
「歌静さんは柊さんのお友達で異世界で遊びまくってる人です」
リコリスさんが説明してくれた。
「んん……言い方が悪いですねぇ。まぁ、なかなか姿を見せませんが……。反乱が起きたときほとんど歌静嬢が勝利を勝ち取ったもんなんですよぉ?」
さすが大魔法使いといったところか。反乱ってどんな規模だったのかなぁ……。
「どうしたの貴方。すごい思い詰めた表情してる。」
リコリスさんが窓付さんにいう。確かになんだか凄く苦しい顔だ。
「大丈夫ですか?」
「歌静さんぐらい魔力があれば、祖国を元に戻せるのに」
「……窓付さんは昔の祖国に帰りたいんですね。」
窓付さんはコクッとうなずく。
祖国なのに居場所がないのは、1番苦しいことかもしれない……。帰りたいのに帰れない。ボクにもし記憶が戻って元の世界がわかっても、居場所がなかったらどうすればいいのだろう……。
そう思うと窓付さんの気持ちが凄くわかる。悲しみがリアルに伝わってくる……。ボクの頬を雫がつたう。なんだか無償に涙がでてきた。
窓付さんがびっくりしている。
「す、すいません……男なのに……格好悪いです……ボク……」
そう言いながらも涙を拭うがいっこうに停まらない。そっと窓付さんがボクの手をつかみ、拭うのをやめさせる。
「拭っても悲しみは停まらない。こうした方がいい」
そういうと窓付さんはボクの頬につたう一粒の涙を、そっと指ですくい取り口に運んだ。
“こくん”と静かに飲み込んだ。
「人形は私が泣いてるときこうしてくれる。そして笑ってくれるの」
「ありがとうございます……窓付さんは昔に返りたいんですよね……」
ボクが涙をもう一回拭うと涙はとまった。
窓付さんは微笑んでボクの質問に答える。
「“帰りたい。”でも時は前にしか進まないの」
沈黙する。
「世界が変わった」
リコリスさんは突然いった。雨はやんでいた。