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Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.36 )
日時: 2010/07/14 18:18
名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)

【11】
「どういうことですか?リコリスさん」
「また詩句さんのせいです。窓付さんがいた世界が昔に時を進めてます」

意味がわからない……。ただボクは泣いただけなのに……。

「そう、“泣いた”。詩句さんの涙には“飲んだ者の願いをかなえる”力があるんです。バンシーの血を飲んだんですから当たり前です」
「あぁ! そっかぁ! 一二三嬢が飲んで願ったから叶っちゃたんですねぇ」

それまで口を閉じていた柊さんがいきなり口を開く。

また!? てか知ってたならいってほしい。いやこの場合いい能力なのだからいいのだろうか?

窓付さんは状況をつかめてないらしい

「窓付さん! 祖国に帰れるよ! 場所はその人形が覚えてる。居場所もちゃんとあるんだよ!」
「……帰れる? 居場所……」

窓付さんは泣いた。念願の夢が叶ったのだからきっと悲しみの線は切れたはず。そう、これは嬉し泣きだ

「時が停まった」

リコリスさんがいった。

「それなら早く帰りたいですよねぇ? ……特別に喫茶店の裏口を使わせてあげますよぉ。荷物は柊が持っててあげましょう」

2人がそういうとペコッと窓付さんは頭を下げた。さっきのチャックに手を突っ込む。中から大きなトランクがでてきた。それを柊さんに渡す。チャックは消える。

次に窓付さんはボクの方へ来て、手を握った。

「ありがとう。……詩句。でももう泣かないで。あなたの涙は力が強すぎて悪用されるかもしれない」

それは彼女がボクに話した中で1番長い言葉だった。

「ありがとうございました。窓付さん違う世界でもお元気で」

本当は別れたくなかった。ボクと生い立ちが似ていたし。話し方は簡潔だし、興味がないと話しがはずまないけど、根はいい人だったから。


「さぁ行きましょうか。一二三嬢」

柊さんが裏口を開ける。

彼女は1回だけこちらを見て、それから奥へ奥へと柊さんと足を踏み入れていった。

扉が静かに閉まる。

「別れたくなかったのは、別の意味があるんじゃないですか?」
「………………」

ボクは黙っていた。きっとリコリスさんは黙っていてもわかっているから

「時は戻ったが、いつかは前に進みだし、また未来へと変わっていってしまう。そのことを心配してるんですよね?」
「………………」

ボクは黙っていた。リコリスさんは話を続ける。

「そうでしょう?」

リコリスさんは催促する。

「そんなの、わかりませんよ」

本当はわかってたのかもしれない。でもボクはいわなかった。