ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.41 )
- 日時: 2010/07/14 18:21
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【12】
窓付さんが元の世界に帰って、ボクの感情がまた1つ消えたあの日から2ヶ月程。
ようやくボクも生活に慣れてきた。今では紅茶いれ係に任命されている。あとときどき買い物係。
最近のリコリスさんは喫茶店ばかりではなく、どこかへ出かけているようだ。どこに行ってるのかまでは教えてくれないから少し気になっている……。
その日も柊さんと自分に紅茶をいれ、ホッと一息いれていた。
ボクはいつもリコリスさんが座っているテーブルの隣へ。
柊さんはカウンターに座っていた
いきなり裏口が開き、蓬さんが入って……帰ってきた。男の腕を引っ張りながら……。
「速くきなさい! ったく!」
「痛たたたっ!! やめろ蓬! 引っ張るな!」
男は今にも蓬さんに牙を向きそうなくらい嫌がっている。
見覚えがない人だけどきっと柊さんのお友達だ。
てか蓬さん機嫌悪いなぁ。
盗賊とは思えない程の足音をたてている。
柊さんはといえば、いつものリズムを崩さず、笑いながら立ち上がった。2人の元へ歩み寄る。
「おやおやぁ? 蓬嬢……お帰りなさーい。そちらの方はもしや御影氏では?」
「ただいま! 柊! そう。こいつは確かに御影紅(ミカゲ コウ)よ! 今回の職場で出会ったの」
御影紅? ………こういうときにリコリスさんがいたらいいのに……。
「よぉ! 柊! 久しぶり。その呼び方やめろって。紅でいいっていってんじゃん!」
「いやいやいやぁ、そういうわけにはいきませんねぇ。生きてたんですかぁ。もう一生会わないと思ってましたぁ」
「んなわけないだろ? これでも俺は月巻組のリーダーだぜ?」
「あぁ。そういうのもありましたねぇ。今でも勧誘はお断りですよぉ」
月巻組? リーダー勧誘? あぁ頭に疑問符が……。
「御影紅。柊さんのお友達の情報屋。月巻組のリーダーで柊さんを勧誘してばっさり断られた過去があります。蓬さんの嫌いなひと第1位」
リコリスさんがいつの間にかいつもの指定席に座っていた。よかったぁ。
「おう! リコリスじゃねえか。」
「紅! 久しぶりだな! 死んだかと思ってたぜ!!」
…柊さんと同じこといってる。
「おまえらひどいな! 蓬も最初んなこといってたな。」
「当然よ! あんた反乱の時勝手に突っ込んでって終わった後も姿を見せなかったんだもん! てか死ねばよかったのよ!」
「ふざけんな蓬! だーかーら俺はおまえが嫌いなんだ! そろそろ俺だって限界だ! いくら女だからって許さねぇ!」
御影さんが袖をまくり上げる
「へぇぇ! そうやって女だと思って何回引き分けになってるか分かってんの!? 脳みそ足りないんじゃない?」
蓬さんが両手にダガーナイフを構える。
「いいや、136勝6敗14分け。勝った回数の方が多いぜ!」
「違うわ! 65勝3敗88分けよ! 逃げたら勝ちなんだから!」
…2人の喧嘩が始まる。イスを投げたりテーブルにダガーが突き刺さったり…。店内が荒れる。
リコリスさんは席を立ちもせず見守っている。
ボクもそれにならい、静かにしていた。
まぁ……どうせ入ってもボクじゃあ止められないだろうし。
「いいかげんにしてもらえますかねぇ」
そんなボクたちと違い、柊さんが2人の間に突然割り込む。蓬さんのダガーが柊さんの腕に刺さった。2人の動きがとまる。
「痛いですねぇ。これも1種の愛情表現ですかぁ?」
「柊さん!!」
ボクは勢いよく立ち、駆け寄ろうとしたが、リコリスさんにとめられる。
柊さんがためらわずにダガーを抜くと、刺さった切っ先がボロボロと灰になっていた。
ボクは思わず腰が抜け、イスにどさっと腰を下ろした。
「ここは柊のお店。静かに紅茶でも飲んでもらえないでしょうかねぇ。詩句がびっくりしてるでしょう?」
「詩句? まさかあの……!!」
「違うわよ。記憶喪失の坊やに柊が名付けたの。」
歯ぎしりしている御影さんに蓬さんがダガーをしまいながら説明する。蓬さんの手は震えていた。
「おまえも柊のダチだったのか。俺は御影紅。紅って呼べ。」
「はい! “御影さん”よろしくお願いします!! 今紅茶をお持ちしますね!!」
「いや…紅って呼べよ」
御影さんが訂正するのをスルーしてカウンターの奥へといく。なんだかこの人もいい人だ。
「ごめんね柊!! 痛かったでしょう?」
「いやいやぁ。冗談ですよぉ? “詩句”に歌ってもらっていてよかったですよ」
「いや悪かった。おまえの店だってことを忘れてた」
「いつもじゃないの! ちなみにリコリスが覚えてるなかでは今回のも入れて0勝0敗157分けだぜ? いっつも柊さんがとめてましたからねぇ」
そんな談笑が聞こえてくる。“詩句”の歌声は相当凄い効力があったようだ。
いったいどんな人だったのだろう。
「そういえば蓬さん。宝探しの方はどうだったんですか?」
ボクがみんなに紅茶を渡しながら聞いた。
「!! それがねっ!! 聞いて! あんなに気味悪いとこにいってのにこの本1つよ!!」
そういって1冊の本を取り出す。
みるからにボロそうな古い本。残念ながらボクにはこの本の世界の字は読めないようだ…。
「ホントね! 何の価値もないわ!」
リコリスさんが鑑定してもNG。
「でしょ!? 私は本を読まないのに!! 柊欲しい? 早すぎだけど結婚記念としてあげるわ」
「柊は蓬嬢と結婚する気はありませんねぇ。みなさんいらないなら図書館に寄付しましょうかぁ」
「図書館!? そんなのあったんですか?」
「ありましたよぉ? 柊達にはあまり必要ありませんがねぇ」
「そうだな! 柊には俺とリコリスがいるし、本よりも知識が豊富なヤツばっかだから。」
「まっ! 専門分野に差がありすぎるけどね!」
……鏡屋の予言者。盗賊。月巻組のリーダー兼情報屋。大魔法使い。そして柊さん自身もよくわからないけど凄い。
性格をはぶいてもはぶかなくても、あまりにも凄いお友達すぎないだろうか。
柊さんは何者なんだろう……。