ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.43 )
- 日時: 2010/07/14 18:33
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【14】
図書館はすぐわかった。竜巻のような形にぐるぐる煉瓦が積み重なっていて、壁に蔓草がはこびっている。
散り逝き通りの暗さはこの図書館のためにできる大きな影
のせいではないかとふと考えてしまうくらい高い。まるで塔のようだ。
さっきと同様。ドアはきしんだ。なんだかホコリっぽい。窓付さんの骨董品屋を思い出す。
天井まで高さがある本棚がたくさんあった。中にはぎゅうぎゅうに本が入っている。
案内図をみると、どうやら1階建てのようだ。こんなに本棚を高くしないで、階を増やせば良かったのに……。
「す、すいませーん……どなたかいらっしゃいませんかぁ?」
自分の声が響き渡る……。返事は帰ってこない。
いきなり肩をたたかれ、ボクは驚いた。
「すいません。別に驚かすつもりはなかったのですが。」
振り向くと、ボクより少し背の高い男がいた。黒縁眼鏡をかけていて、まさに図書館の管理人っぽい。笑っていたので少しボクは安心した。
「こんにちは。あの……。詩句って言います。本を寄付しにきました。」
詩句とボクが名乗ると一瞬男が驚いた気がした。次の瞬間にはまた笑った顔に戻っていたので、あくまで気がしただけだったが。
「胎無向日葵(ハラナ ヒマワリ)です。この図書館の館長をやっております。本の寄付ですか、ありがとうございます。よければこの図書館を案内しますよ?」
「いいんですか!?」
ボクは胎無さんに本を渡しながら催促する。
「えぇ。私1人で経営してますが、なかなか人が来ませんから。ただし、ウザイ子は嫌いですから大声は出さないでくださいね」
すっごく顔立ちが綺麗で笑顔を絶やさない。性格もいい人で1言でいうと格好いい!! なんだかやっとこの世界でまともな人に会えた気がした。
最初は案内図を見ながら説明してくれた。
「まぁ、ほとんどは本ですから、目新しいモノも何もないですけどね。だいたいおおまかに4つにわけて、北には生物や科学。東には伝記や武勇伝、歴史。西には空想小説。南の一番奥は、休憩所として使える読書室になってますよ。本を借りるカウンターは入ってすぐです。書庫の地下室はカウンターの後ろです。勝手に入ってはいけませんよ?」
次に案内してくれた場所は建物の南の突き当たり。読書室の中。
そこに入るとすぐ見えるところに、旅人ノ街の年表が額縁に入れられ飾られていた。
ただし、それは本当かどうかわからないんだとか。それほど歴史が長いらしい……。
「ボクこの世界で本を読んだことないんです。胎無さんはたくさん読んでるんですか?」
ボクは案内してもらいながら質問する。
「まだまだですよ。まだこの図書館の半分しか読んでませんからね」
胎無さんはひっくり返って本棚に入っている本を入れ直ししながら答える。
どうやら、案内するついでに整備もしてるらしい。しっかりしているなぁ。
「え! そんなに? 凄いですね胎無さん。きっととっても物知りなんでしょうね!!」
「いえいえ。そんなだったらとっくに情報屋になってますよ…。“この世界”ということは貴方は別のとこから来たんですか?」
「はい。でも記憶がなくて。胎無さんはずっとここに?」
「私も一緒です。あの子がいなくなって、もう10年たちますね…。」
“あの子”? だれのことだろう…。
胎無さんはなんだか悲しいのか怒ってるのか分からない顔で遠くを見つめている。
「胎無さん? …胎無さん! 大丈夫ですか?」
「…あぁ。失礼しました。ぼぉっとしてしまって。」
胎無さんはさっき入れ直した本をもう1度、ひっくり返して入れ直した。
「“あの子”って、お子さんですか?」
いつも疑問ばっかり増えるだけなので、今回は思い切って質問してみた。
ピタッと動きが一瞬とまった。
「私は独身ですよ。ハハハ。あの子とは昔の彼女のことです。」
「彼女……ですか。今は違う世界で?」
「10年前。いなくなってしまいましたよ。とても無邪気で、いつも私の想定外のことをやってみせてくれました……」
胎無さんの顔がゆがむ。だけど怒ってもいないし、泣いてもいない。ボクには無理してるように見えた。
「あの……感情を隠さなくていいと思いますよ? ボクが言えることでもないですけど」
「怒った所で、泣いた所でハッピーエンドにはならない。そこが本と現実の違いですよ。変わることがないなら、自分が惨めになることはしない方がいいです」
……沈黙。
少しすると胎無さんは歩きだしたので、ボクも後をついていった。
最初の場所に戻ると胎無さんは口をひらいた。
「変なこと言いましたね。館内の案内は終了です。」
「すいません…。こっちこそ変なこと聞いちゃって。あの、また来てもいいですか?」
なんだか少し胎無さんの気がたっているような気がする。やっぱり聞かなければよかった。でもやっぱりそれは一瞬で、次の瞬間には胎無さんは笑っていたんだけど…。
「ハハ。バカな事を聞きますね。私はここの館長ですが、来る来ないを制限することはできないのですよ? どうぞ、またぜひ来てくださいね」
「はい!! ありがとうございました!!」
ボクは元気に挨拶して情報屋へと、喫茶店へと帰っていった。