ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.47 )
- 日時: 2010/07/14 18:36
- 名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)
【16】
図書館に行くといつも通り胎無さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい。今日も来たんですね。」
「はい! 今日はおもしろいこといわれましたよ?」
ボクは柊さんと雅焔さんに言われたことを話す。もちろん名前はふせて。
「おもしろいでしょう? でも確かに野菜とか魚とか、命を食べてますよね人間って。でも仕方がないこと。きっとそういう意味だと思うんです!」
「そうですね……。でもそれは吸血鬼が人の血を吸うことも同じですよね。食べるため…生きるためですから」
胎無さんは虚ろな目で言う。
「それはそうですね。でも死ぬのはイヤです。」
「すいません。変なこといいました。」
「いいえ。あの…前のオススメ本はもう読んじゃいました。何か新しいオススメはありますか?」
ボクがそういうと、胎無さんはいつもの微笑みを浮かべる。
「そうですね……読む前にお茶にしませんか? ちょうど仕事が片づいたところでした」
「本当ですか!!」
ボクは大きな喜びの声をあげた。
もちろん胎無さんは注意する。
胎無さんとお茶を飲むのは楽しいことだ。もちろん柊さん達と飲むのも好きだがまた違う楽しみがある。
「詩句さんは紅茶をいれるのが上手ですね」
「はい。この前“人形好きの魔女さん”に教えてもらったんです」
「いつもいっている“ふざけた宿主さん”じゃないんですか?」
クスッと胎無さんは笑っていう。
「あぁ! “柊さん”のことですね……!!」
ついうっかり個人情報をいってしまった! さっき忠告もされたのに!!
“ガシャン”
胎無さんがカップを落とす。
「胎無さん! 大丈夫ですか?」
驚いた顔のまま固まっている。この前のように遠いところをみている。
「胎無さん?」
「柊……—!! ……あの子はオオカミのように精一杯生きてたのに……イヤなことをやりながら生きてたのに……突然兎が。兎が兎が兎が兎が兎が兎が兎が兎が兎が兎が兎兎兎兎兎兎兎兎……………—」
胎無さんの様子がおかしい。こんなに取り乱す人じゃないのに……。
「胎無さん!! 胎無さん!! しっかりしてください!!! 胎無さん! 胎無向日葵さん!!」
ギョロっとこっちをみる。やっぱり壊れている……。
「胎無さん! 大丈夫ですか? 柊さんとお知り合いだったんですか? ……」
「詩句さん。閉館です。帰って下さい。館長は私です。私の命令に従ってください」
ボクの声が届いてないのだろうか? 質問をスルーしただけだろうか?
「あ、あの!! 明日また来てもいいですか!!」
「はい。絶対来てください。大事なお話がありますからね。お待ちしてますよ! 絶対来てくださいね!! 絶対絶対絶対……—」
「わかりましたっ! じゃ、じゃあまた明日!!」
ボクは胎無さんから逃げるように図書館を出た。
『ついに明日です! 明日やっと…。待っててください。待っててくださいね。もう少しですから、もう少しで……—』
胎無さんの声が中から聞こえてきた。
胎無さんはあきらかに何かおかしい。ボクが柊さんの名前を言ったとたんにだ。ボクのせいで……。
ならば明日絶対来て謝らなければならない。ボクは罪悪感と共にそう思った。
喫茶店に帰ると、柊さん達が不味そうに紅茶を飲んでいた。
「おっかえり!! 詩句! 早かったわね!! 紅茶飲む?」
「やめとけ詩句! 蓬のいれたやつなんてお前の足下にもおよばねぇよ!!」
「何よ紅! 愛情はたくさん入ってるわよ!!」
また蓬さんと御影さんが喧嘩してる。
「詩句。何かあったんですかぁ? 青白い顔してますよぉ。」
「いえ、別に。」
柊さんの名前を言ったら困ったなんて言えない。言われたらきっと柊さんは傷つくと思うから……。
「明日は荒れそうですね」
リコリスさんがフードの下、金色の眼を光らせてボソッと呟いた。
予言。リコリスさんの予言は当たる。
ボクはそれを聞き、少し背筋が寒くなったような気がした。